東日本大震災による打撃の中で、夏の電力需要をどう乗り切るかが大きな問題となっている。化学工学会が8人の大学人を執筆者とする「大震災による東日本の電力不足に関する緊急提言」を発表した。提言には、過度の我慢や経済の停滞を招かないで夏のピーク時を乗り越えるためのシナリオが提示されている。東京電力管内から他地域への転勤者に家族ぐるみで赴任してもらうなど、相当、抵抗がありそうな提案も含まれているが、産業界などがその気になればできそうな対策も多い。
提言は、東京電力管内の今夏のピーク時電力需要を5,500万キロワットと見込み、夏までに用意できる発電容量を4,600-4,700万キロワットと見て、この差を「電力供給力のさらなる増加」「待機電力のように常時発生している電力需要の抑制」「電力需要の時間的シフト、空間的シフト」の3つの対策で埋め合わせることが可能、としている。
このうち最も大きな効果が見込んでいるのが「電力需要の時間的シフト、空間的シフト」だ。土日の休日を夏の間だけ月火あるいは水木などに変更することで、270-320万キロワット程度、昼間だけ稼働の工場、研究所の夜間運転・夜勤、大学の深夜研究・夜間授業など200万人の勤務時間をピーク時間帯外に変更することで150万キロワット、夜間勤務が困難な業種の昼休み時間を電力需要のピーク時にずらすか、ピーク時間帯を含む時間に延長することで100万キロワットの削減がそれぞれ期待できる、とした。
こうした時間的シフトに加え、電力供給に不安がない地域に生産を移す企業の社員に単身赴任でなく家族全員で引っ越してもらうことで、最大100万キロワット(該当者を100万人と見込み)、サーバーを電力供給が不安のない地域へ移すことで30万キロワットといった空間的な電力需要シフトによる削減効果も期待できる、としている。
「待機電力のように常時発生している電力需要の抑制」では、最新機に比べ3倍以上の電力を食う旧式冷蔵庫の買い替え(60万キロワット程度)、旧式エアコンの買い替え(50万キロワット程度)、照明や電球式信号機をLED式に置き換え(20万キロワット程度)、ガスヒートポンプによる空調への置き換え(40万キロワット程度)といった機器の買い替え・置き換えによる削減が見込めるとした。
さらに、全世帯の20%がピーク時にテレビを消すことで最大40万キロワット、電車の間引き運転で20万キロワット、ピーク時間帯だけデスクトップパソコンをシャットダウンし、ノートパソコンをバッテリー駆動したり、パソコンを使用しない別の業務に従事することに100万人が協力することで15万キロワット、待機電力の大きな家電や電気機器の電源コンセントを抜くことで10万キロワットといった、行動・ライフスタイル変更による削減効果も期待している。
これら「電力需要の時間的シフト、空間的シフト」と「「待機電力のように常時発生している電力需要の抑制」の対策で合計895万キロワット、さらに「非常用電源の活用」(最大300万キロワット)、太陽光発電設備の新設(50万キロワット)など電力供給力増加で365万キロワットを見込んでいる。
提言は、これらの対策を進める上で必要なこととして、東京電力に対し「直近数年程度の電力需要の詳細を開示すること」を求め、さらに「新たな電力供給源の製造や建設について、一電力事業体のみならず官民一体となって議論し、成案を得てそれを示すこと」を提案している。