レビュー

情報発信のあり方さらに問われる事態に

2011.03.17

 東北地方太平洋沖地震による福島第一原子力発電所の被害については、マスメディアに情報を頼るほとんどの国民にしてみれば、日々、状態が悪化しているとしか思えないのではないだろうか。

 枝野官房長官が中心となっている政府の情報発信については、さまざまな評価があると思われる。ただし、1979年に起きた米スリーマイルアイランド原子力発電所事故に伴う日本政府の対応時を知るマスメディア関係者からみると、政府の情報発信は当時に比べるとはるかにまともになっている、と言ってもよいのではないか。

 その上で、今さらに何が求められているか、を考える必要もあるように見える。東京電力を初めとする福島第一原子力発電所の被災現場で対策に追われる人々が、身体に障害を受けずに何とか最悪の事態を回避してほしい。そう願う国民が大半だと思う。マスメディアの報道も引き続き、原子力発電所現場の状況を伝えるのが最優先になるのは当然のことだ。一方、多くの国民の関心事は、自分や家族を初めとする一般の人間に対する事故の影響、とりわけ放射線の影響がどうなるかにより注がれつつある、というのが現実ではないか。

 現状の情報開示は、毎日、複数回開かれている枝野官房長官の記者会見が中心になっており、原子力安全・保安院と東京電力の記者会見がその後、あるいは随時、開かれるというのが実態のようだ。枝野長官の記者会見の様子は、首相官邸のホームページでも動画とテキスト情報で記者会見から比較的、時間をおかずに確認できる。しかし、原子力安全・保安院、東京電力の記者会見はテレビ中継を見損なった人には、詳しいことはほとんど追跡、確認できない。原子力安全・保安院のホームページに掲載される情報は恐ろしく素っ気ないとしか言えないからだ。東京電力に関しては、ホームページ上の情報開示、つまり一般国民に対する分かりやすい説明はないに等しい、と言っても過言ではない。

 政府は、枝野長官を中心にした広報体制を、よりマスメディア、一般国民双方にとって分かりやすく、信頼できるように早急に強化すべきではないだろうか。

 1986年に起きた米スペースシャトル「チャレンジャー」爆発事故時の米航空宇宙局(NASA)の広報の仕方が一つの参考になると思われる。一般から選抜された女性高校教師を含む7人の乗員を乗せた「チャレンジャー」が、フロリダ州ケネディ宇宙センターから発射された直後、大勢の報道関係者や関係者たちが見上げる中で爆発、空中分解するという衝撃的な事故だった。NASAケネディ宇宙センターが事故発生の直後に取った措置が、ある技術者一人を広報官に任命したことだった。当時、ケネディ宇宙センターの広報室では記者会見が終わると記者たちがワッと群がる人物が目立った。それが、急きょ、広報官に任命されたその技術者である。

 緊急時の広報は責任者を一人、明確にしてその人から肝心な情報を発信する。この鉄則は、今回の政府の対応を見ても相当に機能しているように見える。ただし、複雑な事故ほど広報責任者が詳しい技術的なことまで熟知するというわけにはいかない。記者会見で技術的な細かい疑問までその責任者に説明させているのは時間の無駄ということも十分あり得る。

 責任者に必ずしも問いたださなくて済むこと、あるいは信頼できる専門家に答えさせた方がむしろテレビやウェブサイトで記者会見の模様を見る一般国民にとっても分かりやすく、信頼できる。そんな情報は、責任者の代わりに特別の任務と権限を与えられた専門家に答えさせる。あるいは、責任者が記者会見から解放された後、会場に残ったその専門家が説明すればよい、という方式を早急に政府は取り入れたらどうだろうか。

 ちなみにチャレンジャー事故の直後に急きょ広報官に任命された技術者は、事故が一段落した時点でNASAを退職、事故から2年8カ月後の1988年9月、スペースシャトルの飛行が再開された時は、ケネディ宇宙センターで打ち上げを生中継していたテレビ局の報道席に座っていた。コメンテーターとしてである。事故発生時のことに関する記者の質問に、広報官に任命された時の条件の一つが「ケネディ宇宙センターで行われるすべての会議への出席が認められることだった」と言っていた。

 政府は、16日付で放射線安全の専門家である小佐古敏荘・東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻教授を内閣参謀参与に任命した、と発表した。意図は十分、推測できる。問題は、小佐古教授に、福島第一原子力発電所で起きている事態がどのような放射線影響を及ぼすかという今、一般国民に最大の関心事になりつつある疑問に常に答えられるような活動環境と権限を与えることではないだろうか。大学の任務を一時、すべて解いて。

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