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マンボウの体に「鳥肌」に相当する防寒の仕組み 長崎大など明らかに

2021.12.02

草下健夫 / サイエンスポータル編集部

 ゆったりと泳ぐ姿が印象的な魚、マンボウ。体が大きいのにかわいらしい形をしているギャップが、人気の秘密ではないか。そのマンボウが、体が冷えるのを抑えるための何らかの仕組みを持っていることが分かった、と長崎大学などの研究グループが発表した。ヒトの肌では、寒い時に鳥肌が立つことで体の熱を逃がしにくくしているが、これに相当するようなものという。グループは従来、海面付近で効率よく体を温める仕組みがあるとみていたが、そうではなかった。

鹿児島湾で実験に使ったマンボウ。背中に記録装置が取り付けられている(中村乙水・長崎大学助教提供)
鹿児島湾で実験に使ったマンボウ。背中に記録装置が取り付けられている(中村乙水・長崎大学助教提供)

気になる「昼寝」

 マンボウは周囲の水温により体温を調節する外温性の魚類で、体温を適度に保つために環境を選ぶ。海面で体を横にして浮かぶ行動「マンボウの昼寝」が知られているが、研究グループメンバーらは6年前、こうして体を温める仕組みが体内にあるとする論文をまとめた。

 当時の研究では、三陸沖のマンボウが深海のクラゲを食べるために海面と水深200メートルの間を行き来していることが分かった。このときの体温をみると、潜って下がった後、暖かい海面に浮上することで回復していた。体が冷える時より温まる時の方が、4倍ほど体温が変わりやすかった。このことから、冷たい所で餌を食べた後、「昼寝」で何らかの生理的な仕組みで効率よく熱を吸収して体を温め、またすぐ潜れるようにしていると思われたのだ。

 さらに詳しく調べようと研究グループは、暖かい海で調べることにした。いおワールドかごしま水族館(鹿児島市)が飼育していたマンボウ3匹に水深や水温、体温の記録装置とビデオカメラを着け、三陸沖と違って水温が高い鹿児島湾(錦江湾)に放して調べた。鹿児島湾の水温は、水深200メートル付近で三陸沖の海面付近と同程度という。マンボウは三陸沖のものと同様、海面と水深200メートルの間を頻繁に移動した。

温まりやすさと、冷えやすさ

 その結果、鹿児島湾のマンボウは三陸沖のものと比べ、温まりやすさが同じなのに対し、2~3倍冷えやすかった。また、温まりやすさと冷えやすさの差が小さかった。研究グループの長崎大学海洋未来イノベーション機構環東シナ海環境資源研究センター助教の中村乙水(いつみ)さん(行動生態学)は「鹿児島湾のマンボウは温まりたくないはずなのに、三陸沖と同じ速さで温まった。三陸沖のマンボウは、温まりやすさが冷えやすさの4倍というより『冷えやすさが温まりやすさの4分の1』と考えるべきだった」と述べている。

 このことから、マンボウは暖かい海面で熱の吸収の効率を高めるのではなく、逆に冷たい所で、体の何らかの仕組みで体を冷えにくくしているとの結論に達した。ヒトの肌で鳥肌が立つのに相当するような、体温低下を抑える何らかの仕組みを持っていることが分かった。これにより、冷たく過酷でも、餌が豊富な深海を利用できると考えられる。

マンボウの体温変化を調べる実験の結果
マンボウの体温変化を調べる実験の結果

 研究グループは長崎大学といおワールドかごしま水族館で構成。成果は海洋生物学の国際専門誌「ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・マリン・バイオロジー・アンド・エコロジー」の電子版に10月30日に掲載され、長崎大学が11月11日に発表した。

魚の体温の重要性が浮上

「昼寝」中のマンボウ。分かりにくいが、船で近づくと逃げてしまうので遠くから撮影したという(中村助教提供)
「昼寝」中のマンボウ。分かりにくいが、船で近づくと逃げてしまうので遠くから撮影したという(中村助教提供)

 では、マンボウが「昼寝」するのはなぜだろう。中村さんは次のように話す。「体温を回復しているのは間違いない。仮説だが、三陸沖のような冷たい海で、海面付近にしかない温かい水に全身を入れようとして、横倒しになるのでは。ただ、行動は積極的だが、体内で何らかのことをして熱の取り込みを活発にしているわけではない」

 魚類の大半は外温性だが、今回のマンボウのように、単に周りの水温に体温を委ねているだけではないものがいるようだ。一方、マンボウの体温保持の具体的な仕組みは不明で、今後の研究課題となった。

 今回のような体温を直接計る研究手法は、魚類の行動などの詳しい理解につながり、保護や漁業に役立つ可能性があるという。中村さんは「体温が水温より高いことで注目されるマグロの仲間を除き、一般的な魚の体温は水温と同じだろう、などと考えられてきた。しかし、体温調節の観点で魚の行動を調べることが大切では」と指摘している。マンボウのみならず、魚の体温研究の重要性も“浮上”する展開となった。

 姿だけでなく、生態も面白いマンボウ。他にも不思議なことが多い生き物といわれ、解明を通じてさらに親しみが増しそうだ。

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