インタビュー

第1回「感染起源は一つ」(岡部信彦 氏 / 国立感染症研究所 感染症情報センター長)

2009.05.13

岡部信彦 氏 / 国立感染症研究所 感染症情報センター長

「新型インフルエンザへの対応」

岡部信彦 氏

米国、メキシコを中心に感染拡大が続く新型インフルエンザは、恐れられていた鳥インフルエンザほどの強毒性は持たないことが分かりつつある。しかし、ヒトの移動が激しい現代において1カ所で発生した新型ウイルスがあっという間に広がる恐ろしさをあらためて世界中に知らせる結果となった。日本記者クラブ主催の「新型インフルエンザ研究会」(2009年5月8日)における岡部信彦・国立感染症研究所感染症情報センター長の講演内容から、今回の新型インフルエンザ感染の特徴と、これから必要となる対応を紹介する。

今回の新型インフルエンザウイルスはブタからヒトに移った。ブタインフルエンザは鳥インフルエンザほど一般には知られていないかもしれないが、日本では毎年、検体が集められウイルスの分析が行われている。発病したブタの症状は食欲減退、鼻汁、せき、発熱といったもので、1週間程度で回復するが、致命率は1%前後ある。

ブタは鳥やヒトのインフルエンザウイルスを引き受けることが時々ある。これまでブタインフルエンザウイルスがヒトから検出されたことはないが、ブタからヒトのインフルエンザウイルスが見つかったことはある。インフルエンザウイルスは8つの遺伝子がバラバラに増殖するため、違ったウイルスが入ると交雑が起こりやすい。ブタの中で鳥やヒトからのウイルスと交雑が起きた結果、新しいウイルスができ、人に感染する「新型インフルエンザ」が起こり得る。

1580年以来、世界では10-13回のパンデミック(地球規模での流行)が発生している。第一次世界大戦中の「スペイン型インフルエンザ」(1918年)では2-4千万人が死亡しており、その後も200万人の死者を出した「アジア型インフルエンザ」(1957年)と100万人の死者を出した「香港型インフルエンザ」(1968年)が発生している。「アジア型」と「香港型」は、渡り鳥から鶏を経由したウイルスとヒトのウイルスがブタの体内でブタのウイルスと交雑してできた新型インフルエンザウイルスによるものと考えられている。「スペイン型」は、渡り鳥から鶏を経由して直接ヒトに移されたものであることが最近分かった。

米国ではブタの50%以上が、ブタインフルエンザウイルスに陽性という報告がある。メキシコは米国からブタを輸入しているから、メキシコでも陽性のブタは珍しくない。日本でも過去にブタインフルエンザは発生しており、原因は米国から輸入した種ブタだった。今回、確認されたウイルスの遺伝子を調べたところ、これまでにヒトから見つかっているA/H1NともブタでみられたHINIとも異なった遺伝子構造をしていることが分かった。米カリフォルニア州とメキシコで見つかったこの新型インフルエンザウイルスの遺伝子配列は98-99%同一との結果が出ている。欧州の感染者たちも誰から移ったかが分かっており、今回の新型インフルエンザ感染はバラバラに起きたのではなく、感染起源は一つであることがはっきりしている。

今の状況から見ると鳥インフルエンザのような強毒性はなさそうだ。感染力は季節性、つまり冬になると流行する普通のインフルエンザと同じくらいだろう。1人の感染者から3、4人が感染する程度である。幸いオセルタミビル(タミフル)、ザナミビル(リレンザ)という薬にも耐性がない(効果がある)ことが分かっている。ただし、ほっとしてはいけない。多くの患者が出ると、重症者の数も増えるからだ。

「スペイン型」(1918年)以降のパンデミックは流行のパターンがそれぞれ異なる。「スペイン型」は、流行の第1波はたいしたことなかったのが、第2波で感染者数、重傷者数とも急増した。「アジア型」(1957年)は第1波がどーんと来て、目立った第2波はみられず、「香港型」(1968年)は、バラバラと来た。

潜伏期は季節性インフルエンザより少し長めの数日で、発症注意期間は米疾病対策センター(CDC)は7日としているが、日本は10日とみている。流行のパターンが「スペイン型」のようになるのか、「アジア型」「香港型」に似るのかについては分からない。

(続く)

岡部信彦 氏
(おかべ のぶひこ)
岡部信彦 氏
(おかべ のぶひこ)

岡部信彦(おかべ のぶひこ) 氏のプロフィール
1971年東京慈恵会医科大学卒、帝京大学小児科助手、慈恵医大小児科助手、神奈川県立厚木病院小児科、都立北療育園小児科など勤務を経て、78-80年米バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。帰国後、国立小児病院感染科医員、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長を経て、91年フィリピン・マニラの世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課課長、95年慈恵医大小児科助教授、97年国立感染症研究所感染症情報センター・室長、2000年から現職。

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