レビュー

国内の感染者増想定した対策に力点へ

2009.05.11

 成田空港で新型インフルエンザ感染者が発見された。検疫で最初のケースをチェックできたことで、むしろインフルエンザの専門家たちは胸をなで下ろしているのではないだろうか。新型インフルエンザ対策がこうした水際作戦だけでしのげると考える専門家はいないだろう。検疫強化で国内体制の整備のための時間稼ぎができた。いよいよ、検疫から漏れて国内にウイルスが侵入したことに備えた対策に重点を移していくべき時期のように見える。

 カナダから米国経由で帰国した大阪の高校生と教師3人に感染が確認された日の8日、たまたま日本記者クラブで岡部信彦・国立感染症研究所・感染症情報センターインフルエンザパンデミック対策チーム代表の記者会見が行われた。まだ感染者確認のニュースが流れる前のことで、前から予定されていた勉強会に近い記者会見である。「国内で感染者が発見されないまま、検疫強化体制をいつまでも続けるのか」という質問に対する岡部 氏の答えは、「なるべく早いうちに国内の医療体制に目を向けた方がよい」というものだった。

 検疫強化という水際作戦、封じ込め作戦を続ける間に、国内各地の検査体制や薬の用意など国内の整備も進んできた。ウイルス感染拡大を水際で阻止する検疫強化は、各地の国立病院機構などからの応援を受けて続けられている。検疫の対象となる航空便もどんどん増えている。韓国や香港などの状況を見ると、早晩、国内にウイルスが侵入すると考えた方がよい。感染者が急激に増える場合を想定すると、検疫に専門家を取られると国内の医療体制の方が手薄になる心配があり、作戦の切り替えが必要、というのが岡部 氏の主張だ。ひとたび新型インフルエンザが流行したら、膨大な感染者に限られた医療関係者で対応するにはリソースの配分も重要、ということだろう。

 欧米と日本のインフルエンザに対する一般人の見方の違いも 氏は指摘している。インフルエンザにかかるとすぐ医者に、という日本人の性向から見ると、感染者が増えると医療機関はたちまち来院者で大混雑という事態が想定される。あふれる感染者に対し医療機関だけでは対策は不可能。社会の協力と一般市民の協力も必要だ。今回の新型インフルエンザは当初の想定より重症度は軽いことが分かってきている。治療は重症の人を優先し、軽い症状の人は家で休み、感染を広げないようにしてほしい、というのが、岡部 氏の提言だ。

 厚生労働省は、これまで発熱などインフルエンザに似た症状が出たらそれぞれの地域の発熱相談センターへ連絡し、医療機関に対しては一般外来と、新型インフルエンザの疑いがある患者の外来を分けるなどの対応を求めている。これに加え、いったん流行が始まってしまったなら、軽症者はむしろ家から出ないで回復を待ってほしいというのは、一般の人々に簡単に理解されるだろうか。大流行防止にはそれが社会全体としては大きな効果を持つということも、そろそろもっとPRする必要があるように見える。

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