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保健は世界が力を合わせないと(神馬征峰 氏 / 東京大学 医学系研究科 国際地域保健学 教授)

2009.04.17

神馬征峰 氏 / 東京大学 医学系研究科 国際地域保健学 教授

「国家戦略としてのグローバルヘルス」記者ブリーフィング(2009年4月7日、日本記者クラブ 主催)から

東京大学 医学系研究科 国際地域保健学 教授 神馬征峰 氏
神馬征峰 氏

 武見敬三・前参議院議員を主査とする「国際保健の課題と日本の貢献」研究会は、1月16日に「保健システム強化に向けたグローバル・アクション:G8への提言」を日本政府に提出した。ことしのG8議長国であるイタリア政府に日本政府から手渡される予定だ。

 研究会は、昨年、日本で開催された第4回アフリカ開発会議(TICADⅣ)とG8北海道洞爺湖サミットに向けて、人間の安全保障を政策の柱に据える日本のグローバルヘルスへの貢献を検討し、提言することを目的に2007年9月に発足した。外務、厚生労働、財務の3省、国際協力機構(JICA)、研究者、NGOの代表で構成されている。海外の主要シンクタンク、NGO、保健専門家との対話も重ねて、G8首脳などへの提案を行ってきた。

 グローバルヘルスという言葉は、1970-80年代によく使われていたインターナショナルヘルスと同様、日本語にすれば国際保健と同じ言葉になってしまう。しかし、ニュアンスは異なる。インターナショナルヘルスは、南(途上国)の問題を北(先進国)がお金と人を出して解決してやる、という意味合いが強かった。これに対し、北と南の違いを強調しない、違いより共通点に注目するグローバルヘルスという言葉が使われるようになった。

 例えば幼児結核というのは途上国で大きな問題だが、先日も日本の芸能人が結核になって大騒ぎになったように、結核は今でも日本の問題だ。そのほか、2003年にはSAAS(新型肺炎)が問題になったし、最近では鳥インフルエンザがある。そのほか、精神疾患、交通事故、肥満なども世界共通の問題になって来ている。先日もラオスに行って保健副大臣に会ったところ、彼が一番気にしていたのが交通事故だった。交通外傷や精神疾患、肥満の問題はどう対応していいか分からない、ということだった。

 いまや世界共通の健康課題が多い。世界が力を合わせて解決しなければならない時代になっている。だからグローバルヘルスが適正な言葉として使われるようになった、と言える。

 今回の提言は、洞爺湖サミットの首脳宣言と「国際保健における洞爺湖行動指針」をフォローアップするために、国際的なタスクフォースを組織し、内外の関係者の協力を得てまとめた。そのポイントは次の3点だ。

 まず、資源の有効活用である。資金、人材、知識といったグローバルヘルスにかかわる資源はいまだに不足している。追加の資金を確保すると同時に、今ある資源をいかに無駄なく使うかについてもっと力を入れるべきだということを提言している。検討を始めたころはまだ世界的な経済危機が顕在化していなかった。有益な提言になったと思う。

 次に途上国の実行能力を高めることだ。サミットでコミットされたお金が途上国に行くわけだが、資金を受けた国がそれを活かせる実行能力があるかというと、そうでない国もある。そこを変えないといかに投資しても有効に使えないだろう。ということで、途上国の実行能力を高める必要を提言した。

 第3にサミットの活動をモニタリング・評価して行こうということだ。われわれはこれまでインプットについては注目して来た。しかし、それがどうアウトプットに反映されるかについては、まだまだはっきりしていないことがある。そこを明確にしておかないと、お金が集まらなくなる。そのためにはサミットのモニタリング・評価が大事だということだ。この3点がわれわれの提言の中心と言える。

 研究会の活動を進めるに当たってずっと気をつけてきたのは、議論をやりっ放しにするのではなく、成果をできるだけ公表し、それも影響力の大きなジャーナルを通じて公表していこうということだ。そうすることにより世界中の専門家に批判してもらい、提言した内容をより洗練されたものにしようと心がけてきた。提言を英国の医学誌「ランセット」に発表したり、本の形にして内外に配るということをしてきた。

東京大学 医学系研究科 国際地域保健学 教授 神馬征峰 氏
神馬征峰 氏
(じんば まさみね)

神馬征峰(じんば まさみね)氏のプロフィール
1985年浜松医科大学卒、浜松医科大学から医学博士号取得。国立保健医療科学院、ハーバード大学などで研究後、94-96年世界保健機関(WHO)の保健医療コーディネータとしてパレスチナのガザ地区、ヨルダン川西岸地区で活動。96-2001年国際協力機構(JICA)専門家としてネパールで公衆衛生活動の拡充に携わる。01-02年ハーバード大学大学院武見フェロー。02年から現職。「国際保健の課題と日本の貢献」研究会メンバー。「保健システム強化に向けたグローバル・アクション:G8への提言」をまとめたタスク・フォースのリサーチチーム「保健人材」ディレクターも。

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