政府の原子力災害特別本部は11日、これまでの避難区域外に計画的避難区域を設けるなど、緊急事態応急対策を大幅に見直した。10日開かれた原子力安全委員会の助言をそのまま受け入れた措置だが、周辺地域への放射線影響についてこれまで十分に説明されていなかった、と原子力安全委員長をはじめ委員会メンバーが見ていることが、公表された原子力安全委員会の速記録から明らかになった。
10日の原子力安全委員会では、黒木原子力安全・保安院審議官から福島第一原子力発電所の現状について「一時期の最悪の状況は脱しつつあると考えているが、事故の状態は安定していない」という認識が示された。続いて坪井文部科学省審議官から、同省が周辺で実施した観測データを主に、原子力安全・保安院提出のデータを基に原子力安全委員会自身が推計したデータも加味した周辺地域の積算放射線量推計値が説明された。各観測地点の事故発生日(3月11日)から11日までの積算放射線量と併せて、現時点の観測値が変わりなかったとした場合、1年後の来年3月11日時点で予想される積算放射線量を推計した数字だ。
それによると、福島第一原発から24キロ離れた浪江町の観測地点で11日までに34ミリシーベルトという積算放射線量となっている。今回の見直しで新たに「計画的避難区域」とされたのは、1年間の積算放射線量が20ミリシーベルトに達すると推定された地域。浪江町のこの地点では事故後、1月間で20ミリシーベルトを大幅に超過してしまったわけで、放射線量が現状のまま推移すると来年3月11日までに313.9ミリシーベルトになるという推定値も示された。この地点を含め、福島第一原発の北西方向24-48キロにある浪江町、飯舘村、川俣町、伊達市の12地点が来年3月11日までに年間20ミリシーベルトという積算放射線量を超えてしまうという結果となっている。
久木田豊・原子力安全委員会委員長代理(専門、原子力熱工学)は、こうした推定に対し「主として3月15日の朝から夜にかけて、2号機の圧力抑制室損傷の疑い、それに先立つ炉心の水位低下といったさまざまな事象が福島第一原子力発電所で発生した。敷地内の測定値などを見ても、この時期に相当量の放射能が放出されたと考えられる。その際に放出された放射性プルームが北西方向に到達していた時点で降雨があったとことが、現在問題にしている地域において地表に放射性物質の相当な沈着を生じたのではないか。それがその後のこの地域での空間線量率が比較的高い値でとどまっていることの主要な原因であろう」と発言している。
さらに、今後の見通しについては「今日でも量は不明だが放出が継続していると想定され、15日時点に比べれば、放出の程度は数桁のオーダーで低下しているというのが現状の認識だ。今後、比較的大きな放出が起こらなければ、地表に沈着した放射性物質のグラウンドシャインによって、この地域での空間線量率が決定されるだろうという見込みを持っている」と語っている。1年間で積算放射線量が313.9ミリシーベルトという数値も十分あり得るとみているように見える。
興味深いのは「風向や降雨により17日ごろに高いピークが観測されたというのは文部科学省だけでなく原子力安全委員会も含め全体的な認識ではないか」とする坪井文部科学省審議官の説明に対し、久木田委員長代理が「その点が必ずしもこれまで対外的に明快に説明されていなかったという点もあろうかと思う」と発言していることだ。
久木田委員長代理の言葉を受けて、班目春樹・原子力安全委員長(専門、流体・熱工学)も「なぜ北西方向に空間線量率が高いところが生じているかということに対する説明が、その地域の方はもちろん、国民全体についても、まだ不十分なところがあったかと思う。ぜひ、そのような説明は十分にする必要があるかと思う」と発言している。
今回の事故に関して周辺にどれくらいの量の放射性物質が放出されるのかという情報が事故が起きてしばらくたってもほとんどなかったことに対しては、専門家からも批判の声が聞かれる(2011年3月26日インタビュー・松原純子氏・元原子力安全委員会委員長 代理「汚染情報の公開もっと早く」)。
原子力安全委員長、委員長代理の発言からは、地域住民、国民全体に説明する責任がだれにあるのか、ははっきりしない。ただ、事故発生以来からの原子力安全委員会の情報発信を見ている限り、自分たちの責任ではないと思っているようにしか見えないが、どうだろう。