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新型インフルエンザ水際作戦の意義と効果

2009.06.29

 新型インフルエンザへの日本の厚生労働省の対応方針がこの1週間で大きく軌道修正された。19日に「医療の確保、検疫、学校・保育施設等の臨時休業の要請等に関する運用指針」が改定されたのに続き、25日には改定内容を詳しく説明する都道府県、保険所設置市、特別区の衛生主管部あての事務連絡、さらに26日には新型インフルエンザ対策担当課長会議で重ねて新たな運用指針に沿った取り組みの徹底が図られた。

 一言で言えば、長期戦に変わったということだろう。では当初の対応方針の何がどう変わったのだろうか。

 24日、政府の新型インフルエンザ専門家諮問委員会委員長を務める尾身茂・元世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局長・現・自治医科大学教授の記者会見が日本記者クラブで行われた。

 「糖尿病など基礎疾患を持つ人に対する危険性が高いことが分かってきた。これからは死者をできるだけ増やさないことを目標にすべきだ」

 尾身 氏のこの言葉に、指針変更のポイントが示されているといえそうだ。氏は、長期戦を覚悟することに加え、感染は拡大しており封じ込め作戦はもはや非現実的であるとし、病原性は中程度だが特に基礎疾患のある人の危険性の高さと重点的な対応の必要を強調した。

 日本で感染者が初めて確認されたのは5月8日、カナダから米国経由で帰国した高校生と同伴教員である。検疫体制強化の水際作戦が功を奏したようにも受け止められた(厚生労働省はこれらを国内患者に含めていない)。同省が神戸の高校生を初の国内感染者と認めたのが、8日後の5月16日。これら高校生は渡航歴がないことから国内で初めてのヒトからヒトへの感染の確認例ともなった。その後も、検疫強化体制は続けられたが、神戸の感染例が見つかる前の段階で対策の軌道修正を指摘する声も、インフルエンザの専門家からは出ていた。検疫強化のため全国から医師たちを集めるより、むしろ国内の感染拡大防止に医療人材を振り向ける方が適切という主張だ(インタビュー・岡部信彦 氏・国立感染症研究所感染症情報センター長「新型インフルエンザへの対応」第2回(2009年5月15日)「水際作戦だけでは防ぎ切れない」参照)。

 このあたりの対応は、尾身 氏も認めるように、各国いろいろな事情があり、一律には評価しにくい面はある。例えば、開発途上国が日本のような水際作戦をとることはできない。仮にそんなことをしても社会、経済活動などに混乱を招く方の不利益の方が深刻。だからWHOも一貫して国境封鎖や海外渡航制限の必要がないことを指摘し続けており、日本と同様の検疫体制をとったところはオーストラリア、ニュージーランドというその余裕がある一部の国に限られた、という。

 尾身 氏によると日本で確認されたウイルスは、新型インフルエンザ発生地のメキシコとその後、米国で見つかったウイルスと中間の型であるという研究結果も出ている。つまり、メキシコから米国へ感染が拡大したのと同時期、あるいはむしろ早く、4月末には日本国内で最初の発症例が出ていた可能性がある、という。

 結果論からいえば、検疫強化で国内感染を食い止めるという水際作戦からもっと早く国内での感染拡大防止策重視に切り替えた方が合理的だったという見方も成り立ちそうだ。

 幸い指針の改定で「重症患者数の増加に対応できる病床の確保と重症患者の救命を最優先とする医療提供体制の整備」や「院内感染対策の徹底等による基礎疾患を有する者等の感染防止対策の強化」などを基本とする対応方針が明確にされた。

 自治体、医療機関だけでなく教育、福祉関係者さらには国民一般も、新型インフルエンザが疑われる人が出たとき、あるいは自分自身が疑わしいと感じたときにどのように行動したらよいか、だいぶ分かりやすくなったと思われる。

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