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問われる行動 - 生物多様性締約国会議多くの成果(香坂 玲 氏 / 名古屋市立大学 准教授)

2010.11.05

香坂 玲 氏 / 名古屋市立大学 准教授

名古屋市立大学 准教授 香坂 玲 氏
香坂 玲 氏

 愛知県名古屋市で開催されていた生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)は、10月30日の未明、名古屋議定書の交渉が議長提案の採択という劇的な幕切れで終わった。外務省の発表によると179の締約国の代表と13,000人以上が参加した。

 主要な成果として、名古屋-クアラルンプール補足議定書、2010年以降の愛知ターゲット、遺伝資源へのアクセスと利益配分についての名古屋議定書が誕生した。今後の10年を国際生物多様性の10年とすること、世界各国の里山と類似したモデルから、伝統的な知識と科学的な知識を融合させていくSATOYAMAイニシアティブもスタートした。実施する機関として「SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ」も発足し、51カ国以上の国や国連機関が参画した。

 また都道府県や市町村などの自治体にとっては国際自治体会議、若者や児童にとってはユースやこども会議が開催された。さらに産業界にとっても、「生態系と生物多様性の経済学」(TEEB)の最終報告や経団連の生物多様性民間参画イニシアティブなどが発足した。

 今回採択された2つの議定書について、一つは、「(責任と救済に関する)名古屋・クアラルンプール補足議定書」という、カルタヘナ議定書の追加的な議定書である。これは、遺伝子組み換え生物の国境を越える移動から生物多様性に損害を与えた場合の責任とその賠償に関する取り決めを定めるものである。

 2010年以降の愛知ターゲットは、主に2020年(一部2015年や2050年の長期目標もあり)に向けて、生態系の保全を中心とした目標となっている。陸地については17%、海域については10%を保全していくことなどを定めた。生物多様性関連の資金援助についても増量していくことを約束したが、例えば政府開発援助(ODA)を10倍・100倍、2000億ドル拠出する(ブラジル主張)といった数値は取り下げられた。ただし、資金援助についての数値目標が事務局の原案に入っていたことからも分かるように、発展途上国を中心として、資金・技術の援助についての要望は、会議の間も繰り返し出された。記者の中には「会議場では、カネの話ばかり。いい加減にしてほしい」という不満も漏れた。

 もう一つの名古屋議定書、「遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)に関する名古屋議定書」とは、遺伝資源を利用した研究開発やその利益を遺伝資源の提供者と利用者の間で公正かつ衡平に配分に関する規則を定めたものである。その内容は、派生物に関しては直接の規制対象とはせず、遺伝資源の利用の監視機関に関しては義務化しつつも具体的機関の指定に関しては締約国の裁量に任せるなど、先進国にとって受け入れ可能な内容となっている一方で、技術移転や能力開発のほか、グローバルな利益配分メカニズムに関する条文を明記するなど、途上国に配慮した規定もされている。

 ざっと列挙しただけでも、COP10ではこのようにさまざまな観点から実に多彩な成果が出た。ただ、注意しなければならないのは、どの成果も実施や具体的な取り組みについてはこれからの行動にかかっているという点だ。これは、国内法の議論、議定書の署名やより具体的な取り決めや修正が待っている政府関係者、またTEEBのフォローアップやイニシアティブに協賛を表明した民間企業、知識の普及が必要となる市民についても同様のことが言える。

 特に、企業については今後も議定書についての国際的な動きと、国内法の制定の有無を含む国内の動きについての情報収集をすることが重要となる。イニシアティブについても、各企業が独自に宣言や行動を起こし、国際的な動きに広げていくチャンスとなっている。市民やNGOもCOP10を一過性のイベントとしてしまわないためにも、発展途上国を含む国々との連携や草の根での交流がますます重要となる。また、批判的なまなざしを向けながらも、政府や企業が行動を改善した場合には褒めることも大事となろう。

名古屋市立大学 准教授 香坂 玲 氏
香坂 玲 氏
(こうさか りょう)

香坂 玲(こうさか りょう) 氏のプロフィール
1975年静岡県生まれ。桐朋高校(東京都国立市)卒、東京大学農学部卒、ハンガリーの中東欧地域環境センター勤務後、英イーストアングリア大学大学院修士課程終了、ドイツ・フライブルク大学環境森林学部で博士号取得。国際日本文化研究センター研究員などを経て、2006年カナダ・モントリオールの国連環境計画生物多様性条約事務局員、08年から現職。COP10支援実行委員会アドバイザーのほか世界自然保護基金(WWF)ジャパン自然保護委員会委員も。研究分野、課題は森林管理・ガバナンス、景観評価、貿易摩擦。著書に「いのちのつながり よく分かる生物多様性」(中日新聞社)。

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