サンゴ被害など個別の現象を除き一般の関心が薄い海洋酸性化について、世界の学術団体が警告を発した。
日本学術会議の金澤一郎会長も、16日国際学術団体「インターアカデミーパネル(IAP)」が「海洋の酸性化についての声明」を発表したのを受けて、15日、この声明に加わった科学アカデミーの一員として状況改善に努力していくことを表明する談話を公表した。
IAP声明は、海洋酸性化の現状をどのようにとらえ、どのように対応すべきだと考えているのだろうか。
声明は、過去200年の間に人為的原因で大気中に放出された二酸化炭素(CO2)のうち4分の1を海洋が吸収しており、その結果として海洋の酸性化がもたらされていることを指摘し、炭酸カルシウムを生存のために必要としている海洋生物たち、さらにそれらの生物をえさとしている海洋生物たちに深刻な影響を与えていることに警告を発している。
海洋の酸性化というのはどういう状態を指すのか。人為的なCO2放出が始まった産業革命以前に比べCO2を吸収した海洋の表面の水素イオン指数(pH)は0.1低下(酸性化)した。これは水素イオンの活動度が30%上昇したことを意味し、この水素イオンによって方解石のような炭酸塩が減少、これらの炭酸塩を貝殻や骨格にしているサンゴなど海洋生物が被害を受ける構図が生じている。IAP声明によると、酸性化によるこうした海洋の化学変化は数千年間は元に戻らず、それによる生物的影響はさらに長く続くとされている。
被害の大きさに気がついたときは既に手遅れ。温室効果ガス排出増による気候変動の深刻さを表現する際にしばしば言われることだ。海洋酸性化の影響の大きさは、よく知られる気温上昇や海水面の上昇などに比べても深刻さということではひけをとらない、ということだろう。
声明は、海洋酸性化の対策は大気中のCO2濃度抑制以外にないことを指摘し、2050年までにCO2排出量を1990年比で少なくとも50%削減することが必要だとするとともに、12 月にコペンハーゲンで開催される「気候変動枠組条約第15 回締約国会議(COP)」の議題の一つとして海洋酸性化を取り上げるよう世界の指導者に呼びかけている。