環境省の戦略的研究「温暖化影響総合予測プロジェクト」(プロジェクトリーダー・三村信男 氏・茨城大学教授)が、今世紀末までの温暖化による日本への影響をまとめ公表した。
温暖化による影響については「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)による膨大な報告書から、気象庁など個別の機関が出している予測まで数多く出されている。そのため、かえって一般の人たちには分かりにくい面もあるのではないか。このプロジェクトも昨年、その時点の研究結果を基に多方面にわたる影響を予測し発表している。今回は、その後の研究成果を盛り込んだものということだ。この影響予測プロジェクトには総額10億3,000万円の予算がつぎ込まれている。新たに何が分かったのか、プレスリリースから読みとってみた。
予測は、温室効果ガスの大気中濃度が450ppm(2005年の値は379ppm)で安定化する場合から、成り行きに任せるまで3段階の気候シナリオの下で影響を予測している。450ppmの場合というのは、温暖化対策がうまくいったときのことだ。年平均気温変化は、産業革命前に比べ2.1℃上昇(1990年比では1.6℃上昇)となっている。IPCC報告では、「環境の保全と経済の発展が地球規模で両立する社会」においては、1990年比で約1.8℃の温度上昇があるとしている。450ppmで安定化する場合の影響予測はほぼこれに対応するものだろう。
予測結果はどうか。「温室効果ガスを450ppmに安定化した場合でも一定の被害が生じることは避けられない」という。2100年時点の被害程度は以下の通りだ(1990年基準、かっこ内は年間の被害によるコスト)。
「洪水はんらん面積」500平方キロ(5.1兆円)、「土砂災害(斜面崩壊発生確率)」4%(6,500億円)、「ブナ林減少」36%(1,325億円)、「マツ枯れ危険域」27%、「海面上昇(15センチ)による砂浜減少」29%(273億円)、「海面上昇による高潮浸水」(1)西日本地域32万人、155平方キロ(5.4兆円)、(2)3大湾地域30万人、63平方キロ(1.8兆円)、「熱ストレス死亡リスク」2.1倍(501億円)。
なおコメ収量は、地域によって異なるが全国的傾向としては今世紀中ごろまで収量は増加するものの、その後は減収に転じるとしている。
このような危険についてはいずれも昨年、同じプロジェクトチームがまとめた影響予測でも指摘されていたことである。しかし、温暖化対策が世界的にうまくいった場合の被害についても具体的な数字が示されたのが目新しいところと言えそうだ。特に洪水はんらん、高潮による被害の深刻さが、目を引く。