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革新電池への期待(射場英紀 氏 / トヨタ自動車 電池研究部長)

2009.05.13

射場英紀 氏 / トヨタ自動車 電池研究部長

トヨタ自動車 電池研究部長 射場英紀 氏
射場英紀 氏

サステナブルモビリティ

 持続可能な社会を実現するためには、化石燃料の消費が少なく二酸化炭素(CO2)の排出の少ない自動車が必要である。そのために車両の小型・軽量化やエンジンの低燃費化など、多くの取り組みが行なわれてきた。

 ハイブリッド車は低燃費と走行性能の両立という観点から、1997年のプリウスの発売以降、車種と台数を増やしてきている。現在のハイブリッド車はガソリンを給油して、電池との間での効率的なエネルギーのやりとりをすることにより低燃費を実現している。

 プラグインハイブリッド車は、住宅などの電源から車両に搭載された蓄電池に充電することにより、従来のガソリンのみを給油するハイブリッド車に比べて一次エネルギーの多様化に対応できるとともに、CO2の排出やエネルギーコストの低減も期待できる。プラグインハイブリッド車においては、蓄電池の容量が大きければ大きいほど電池による走行距離が増え、CO2の排出量やエネルギーコストが小さくできる。

 電気自動車は、古くからフォークリフトやゴルフカートなどで実用例があるがいずれも一充電での走行距離が短く、普通乗用車に大量普及させるためには蓄電池の性能向上による航続距離の延長が最大の課題である。

 以上のように、ハイブリッド車や電気自動車において蓄電池はいうまでもなくコア技術であり、電池の革新がそのまま自動車の革新につながるといっても過言ではない。

「佐吉の電池」

 豊田佐吉翁は、トヨタ自動車株式会社の母体となった豊田自動織機の創始者である。1925年、佐吉翁は当時100万円の賞金をかけ、ガソリン以上のエネルギー量の蓄電池の公募を行っている。いうまでもなく「佐吉の電池」は80年以上経過した現在でも実現していないが、そのビジョンは現在社会でもそのまま適用できるものである。

 電気自動車は、「佐吉の電池」が求めるエネルギー量の5分の1程度で航続距離が延長でき、きわめて実現性が高まると考えている。しかしながら現状のニッケル水素(Ni-MH)電池や、リチウム(Li)イオン電池では、その理論容量でもこのエネルギー量には及ばない。これまでの蓄電池の開発経緯が示すとおり、画期的にエネルギー量の大きい電池の開発のためには新しい原理や材料が必要不可欠である。

 電池は電極と電解質が基本構成である。現在、新原理として電解質を従来の液体から固体にした全固体電池や、電極に金属をそのまま用いる金属空気電池などがその候補だが、実現のためには課題も多く長期の研究によるブレークスルーが必要である。

夢の実現のために

 このようなブレークスルーのためには、サイエンスに基づく創造的・萌芽的な研究が不可欠と考える。このような研究は内容の学術レベルが高いだけでなく、長期の研究期間が必要でかつ成功確率も小さいため民間企業が単独で行うことは難しく、大学や公的研究機関での研究と産学連携によるその成果の受け渡しに対する期待が大きい。例えば、ナノテクノロジーに関連する研究はここ数年間、文部科学省や経済産業省のプロジェクトで数多くの成果が得られているが、これらは、電池の研究に直接つながるものもある反面、シーズとニーズのギャップが大きいものが多い。

 これらのギャップを埋めるためには、サイエンスに基づく研究シーズとエンジニアリンクによる開発ニーズの両方を理解する目利き人材が期待されるが、なかなかそういう人はいないのが実情である。これを解決するためには大学の研究者と企業のエンジニアとが、研究成果の受け渡しの条件やギャップを埋めるために必要な研究開発は何かを議論し実行する「場」や「しくみ」を設けることが、成果の有効活用や人材育成につながるのではないかと考える。

 科学技術振興機構や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がマネジメントを行う国家プロジェクトは、そのテーマ選定から成果の評価に至るプロセスは、大変、組織的にかつ厳格に行われていると感じる。このような成果の受け渡しの部分のさらなる強化により、さらにその価値を高めることができるのではないかと考える。

トヨタ自動車 電池研究部長 射場英紀 氏
射場英紀 氏
(いば ひでき)

射場英紀(いば ひでき) 氏のプロフィール
1962年和歌山県生まれ。85年大阪大学工学部金属材料工学科卒、87年大阪大学大学院工学研究科修士課程修了、トヨタ自動車入社、自動車用軽金属部品の研究開発に従事、93-96年物質工学研(現・産業技術総合研究所)に派遣され、水素吸蔵合金を研究。97年東北大学大学院工学研究科工学博士取得。2000年トヨタ自動車技術統括部で先端研究の企画統括と産学連携推進を担当、08年電池研究部設立とともに現職。

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