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現実の問題解決は文・理の枠越えて(山海嘉之 氏 / 筑波大学大学院 システム情報工学研究科 教授)

2011.07.01

山海嘉之 氏 / 筑波大学大学院 システム情報工学研究科 教授

FIRSTサイエンスフォーラム「ファースト:世界一の研究を目指して」(2011年3月26日、科学技術振興機構 主催)講演から

筑波大学大学院 システム情報工学研究科 教授 山海嘉之 氏
山海嘉之 氏

 私たちが開発した「ロボットスーツHAL」の原理を説明すると以下のようになる。人間が体を動かそうとすると、脳から脊髄、そして運動ニューロンを通って人間の意思が伝わっていく。これは非常に小さなイオン電流というものが大本となって伝わっていくが、これを受けて筋肉が動いて、私たちの体が自由に動く。その際に出てくる非常に微弱な生体電気信号を皮膚表面から抽出して人間の意思によって動くロボットをつくり上げていくというものだ。世界初のサイボーグ型ロボットと言うこともできる。

 実際の脊髄損傷の方に付けてみる。自分では足がほんの少ししか動かせなくて、立って歩いたりすることはできないが、HALを付けて慣れてくると医師らの指導で頑張れる。自分の意思で頑張ろう、立とうとしない人はロボットも助けてくれないのが面白いところだ。勝手にロボットが動くわけではない。

 例えばロボットにセンサーをたくさんつけて、人間の動きを見ながらロボットが動こうとすると、常に人間が先に動くことになるから、実は体が動く人しかサポートできないことになる。ところがこの原理は違う。人が何かしようとしたその信号を使ってロボットが動くので、ロボットがちゃんと人を支援するという本当の意味のアシストがここで実現できているということになる。

 私は、ロボット好きみたいに思われているが、そうではない。たしかアーサー・C・クラークだと思うが、「十分に発達した科学は魔法と区別できない」という言葉がある。実は子どものころの私にとって科学者とか研究者は魔法使いのように見えていた。そういう人になれるんだろうなと思って、小・中学校時代は妙な実験ばかりやっていた。

 筑波大学では入学生全員を相手に大きな講堂で授業を1回やらされる。文科系の学生が授業を聴いた後、そばに寄ってきて「とてもすばらしかった」と言ってくれたことがある。ただ、「私は文科系なのでこういうことをやろうと思ってもなかなかできない」と言う。それは違う。今私がやっていることもそうだが、何かを本気でやろうとすると、すべてがつながっている。どこも主役だから、どの分野でもいい。達成すべきことというか、生き方がある程度自分で見えていたら、そこにかかわっていくものを、わくわくしながらやっていけば、全部の分野にちゃんとつながっていくものになる。だから、そんなに深刻に考えなくてもいい。

 よく大人は若い人に夢を持てなんていうことを言う。大学生で「僕は夢が持てない」と青い顔をして言ってくる子もいる。私がそういう時に言うのは「もし自分に夢がないと悩む時間があるとしたら、例えば、わくわくしながら走り込もうとしている人の夢を追って一緒に歩む道もあると思う」ということだ。1つのチームをつくって、みんなで一緒にそこを乗り越えていこうというやり方もある、と。物の考え方をちょっと変えるだけで、どんな分野もその場その場で非常に重要な主役として動くことができると考えている。

 ロボットスーツHALを例にとれば、実はあれを使ってロボットと人間との間にインタラクションが神経系や生理系を介して起こるわけだ。人間の脳とロボットの間でいつもやりとりが起きるということで、リハビリテーションの中でも特にニューロリハビリテーションという世界が新しく開拓できることが分かってくる。その時は、リハビリテーションをやっている医療の人たちと一緒のチームを組むことになる。なおかつ、こういったものを本当に社会に投げていこうとすると、社会制度をちゃんと扱う人たちと一緒にチームを組まないといけない。

 革新技術というものは、社会に出ていく時には法律やガイドラインがまだ準備されていないから、それも一緒につくっていかないといけないわけだ。そうすると行政の方も含めて大きなチームを組む必要がある。文系・理系というものの見方そのものが、もうその枠組みを越えてしまっているわけだ。現実の問題は複合問題だから仕方がない。そうなってくると、すべての分野にかかわれるという発想で見れば、どんな分野から攻めていってもいいということになる、と私は考えている。

筑波大学大学院 システム情報工学研究科 教授 山海嘉之 氏
山海嘉之 氏
(さんかい よしゆき)

山海嘉之(さんかい よしゆき)氏のプロフィール
岡山県立岡山朝日高校卒。1987年、筑波大学大学院工学研究科(システム制御工学分野)博士課程修了、筑波大学講師、助教授、米ベイラー医科大学客員教授を経て、筑波大学大学院システム情報工学研究科教授。脳神経科学、運動生理学、ロボット工学、IT技術などを融合したロボットスーツ「HAL」を研究開発、2009年にスタートした最先端研究支援プログラム「FIRST」30課題の一つ「健康長寿社会を支える最先端人支援技術研究プログラム」中心研究者に選ばれる。04年大学発ベンチャー企業「サイバーダイン株式会社(CYBERDYNE Inc.)」を設立、代表取締役CEOとしてHALの研究開発、普及を進めている。

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