レポート

《JST主催》SDGsを自分の課題と捉えよう サイエンスアゴラin京都の企画で議論

2022.03.29

青松香里 / JST「科学と社会」推進部

 2015年に国連で採択された「SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)」は、30年までに国際社会が達成すべき17の目標を定めている。今はその折り返し点に差し掛かるところだが、達成は楽観できないという。一人一人が各目標を自分のこととして真正面から捉えて取り組むことが求められるだろう。こうした中、SDGsの“自分ごと化”を目指す活動が政府のモデル事業に選ばれている京都市で関連イベントが開かれ、世代や分野を超えた多様な人々が集まった。

「京都大学“超”SDGsシンポジウム サイエンスアゴラin京都」のオープニングセッション=3月7日、京都市右京区の京都里山SDGsラボ「ことす」(配信画面から)

京都大の持続可能性シンポ、今年は

 イベントは3月7~13日に京都里山SDGsラボ「ことす」(京都市右京区)で開かれた「京都大学“超”SDGsシンポジウム サイエンスアゴラin京都」(同大主催、科学技術振興機構=JST=など共催)。オンライン配信を併用した。同大は2018年から持続可能性に関するシンポジウムを毎年開催している。5回目の今年は「持続可能性の自分ごと化」と題して企画。文化、食、福祉、万博と科学技術、プラスチックといったテーマを日替わりで設け、学生と有識者の対話や、SDGsへの理解を深めるゲームなど20以上の企画を開催した。人気バーチャルユーチューバー(Vチューバー)の「きらめきひいろ」が盛り上げた。

 「万博と科学技術」をテーマにしたのは10日。JST主催のセッション「持続可能性の自分ごと化 ローカルSDGsの達成のために」では、さまざまな分野で活躍する有識者が対話を展開した。

「SDGsノート」書き込みで埋めた小学生たち

 同大の浅利美鈴准教授は、会場となった「ことす」のある京北地域の活性化に携わっている。自身が研究するごみ問題や、廃校の有効利用により昨夏オープンした「ことす」がコミュニティーの拠点となることに触れながら、学生と進めている活動を紹介した。SDGsの17の目標を毎日1つずつ実践する活動は、同大のアクションプランにも結実したという。

左から浅利氏、落合氏、堺井氏(配信画面から)

 浅利氏は「世界に誇れる教育を」との小学校教員の相談を受け、市内の小学校で行ったユニークな取り組みも報告した。5年生にSDGsについての講義をし、独自に作成した冊子「SDGsノート」を配布。これを家庭で目にする場所に置き、SDGsに関して気付いたことを日々、何でも書き込んでもらった。「ノートを喜び、熱心に取り組んでくれた。なかなかページが埋まらない例もあったが、1カ月後には書いたことを紹介し合い、『こんな身近なこともSDGsなんだ』と気付いていった」という。

 ノートを活用した小学生たちを、浅利氏は「『SDGsめがね』を手に入れた」と表現した。“自分ごと化”を果たした児童は地元を巡り、SDGsに関することを盛り込んだ地図も作成したという。

デジタル、アートと持続的伝統文化

 SDGsは「多様性を認め合う」概念を内包している。筑波大学デジタルネイチャー開発研究センターの落合陽一センター長は、義足を使う人や耳が不自由な人なども参加するワークショップを定期的に開催しているという。

 落合氏は「持続可能性を人間中心ではなく、生き物とデジタル、デジタルと(人間の)身体、身体と人間の歴史など、大きな枠組みで考えたい」との見解を示した。独自の感性と技術は、伝統芸能や工芸品とのコラボレーションを通じ、地域の活性化にもつながっている。パラジウムやプラチナを使った印刷作品を昨年11月に醍醐寺(京都市伏見区)で展示した例を挙げ、「デジタルやアートは、京都の持続的な伝統文化にうまくはまる」と話した。

 2025年日本国際博覧会協会の堺井啓公広報戦略局長は、大阪・関西万博に向けた「TEAM EXPO 2025プログラム」を紹介。企業や大学、自治体、はたまた個人、少人数のグループなど、あらゆる活動主体がSDGsの達成に貢献できるよう後押ししているという。持続可能性の“自分ごと化”に「万博を活用してほしい」と呼びかけた。

左から山﨑氏、門川氏、山内氏(配信画面から)

 三洋化成工業の山﨑有香総務本部副本部長は企業の立場から、またETIC.(エティック)の山内幸治シニア・コーディネーターはNPO法人の立場から、取り組みや思いを語った。山内氏は「実行しながら学習し、自分たちがどうあるべきかを考える」ことを重視しているという。「評価や批評ではなく、(SDGsに関することを)やってみたいという気持ちを(周りの人が)応援する文化を育むことが大切」。世代や興味の違いを超えて自発的な活動を促すにはどうすればよいかなどをめぐり、熱い議論が交わされた。

 京都市の門川大作市長も会場に飛び入り参加し、熱心に耳を傾けた。「伝統は革新の連続。1300年の歴史を持つ京都だからこそ生まれた技術もある。(京都が)持続可能性を考える役割を今後も果たしていきたい」と語った。京都市はウクライナの首都、キエフ市と姉妹都市の関係にある。SDGsには「平和と公正をすべての人に」が盛り込まれている。門川氏はロシアがウクライナに侵攻している現在の情勢がこうしたSDGsに逆行するものだとし、キエフ市に対して「積極的に支援したい」と心を寄せた。

 「SDGsめがね」は決して、小学生だけのものではないはずだ。世代を問わず、私たちが暮らしの隅々を見つめて、身近なSDGsに少しずつでも気づけば、人類社会全体で持続可能性への取り組みの大きなうねりになっていくに違いない。このイベントは多くの参加者にとって、日常生活を改めて思い返し、捉え直すひとときとなったのではないか。

セッション「持続可能性の自分ごと化 ローカルSDGsの達成のために」で語る(左から)浅利氏、堺井氏、門川氏(配信画面から)

関連記事

ページトップへ