レポート

《JST主催》「サイバー万博」の可能性、サイエンスアゴラで議論

2021.12.14

鴻 知佳子 / フリーライター

 よりよい未来社会のあり方を科学者と市民がともに考える国内最大級の科学イベント「サイエンスアゴラ2021」(科学技術振興機構〈JST〉主催)。「科学技術と文化・教育の社会に対する役割と未来の可能性について考える」をテーマにしたセッションでは11月4日、2025年に開催される大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」に関する取り組みを国内外へ発信するオンライントークイベント「EXPO PLL Talks」が連携企画として開かれた。

 2021年4月から複数回開催されてきた同トークイベントでは、識者らが大阪・関西万博で予定されている様々な企画の中でも「サイバー万博(仮称)実施の可能性」についての対話を重ねてきた。本企画でもサイバー万博(仮称)で具体的に実施できるイベントの可能性について議論された。

オンラインで参加した中央下の齋藤精一さんから時計回りに大嵩豪朗さん、宮原裕美さん(オンライン動画「04-A19 科学技術と文化・教育の社会に対する役割と未来の可能性について考える」から)

誰もが参加できるプラットフォームを目指す

 最初に、ソーシャルデザインなどに取り組むパノラマティクス主宰で大阪・関西万博PLL(未来社会の実験場)クリエーターでもある齋藤精一さんがファシリテーターとして、なぜサイバー万博(仮称)を開催するのか、今年4月から様々な人と議論してきた内容の概要を共有した。

サイバー万博(仮称)の意義について説明する齋藤精一さん(オンライン動画から、資料は齋藤さん提供)

 万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」にはSDGsも含まれていて、社会のこれからのあるべき姿をPLLというコンセプトを掲げるこの万博で試せるという。最近はインターネットの発展などもあって様々な知識や技術、ノウハウを共有することが可能になっており、サイバー万博(仮称)では万博のテーマに沿って「国や人種、文化を超えてあらゆる生物を持続させるためのアクション」を起こせる場にしたいと話した。

 特にリアルとバーチャルをつなぎ、これまでつながっていなかったモノ・事・人・思想をつなげるサイバーの可能性に期待を込めた。国や言語圏という概念のないプラットフォームの実証実験が総務省のプロジェクトなどで進められている状況もあり、「インターネットの環境が乏しいところも含めて世界中の全ての人が参加できる」場として、大小様々なアクションが起こせるプラットフォームを目指すべきだと提案した。

最先端技術を活用し、実証する機会に

 次に、2025年日本国際博覧会協会・参事の大嵩豪朗さんが万博のこれまでを振り返り、万博が目指す方向性や、万博の中でのサイバー万博(仮称)の位置付けを改めて説明した。2025年4月13日から半年間開催される万博の会場は大阪の夢洲という人工島で、建設工事も始まった段階だ。万博のテーマの下で、8人のプロデューサーがどんなパビリオンを作るかそれぞれに考えているところだという。2030年というSDGsの目標時期の5年前だからこそ見えてくる具体的な示唆を与えつつ、2030年以降の未来の姿も見せられる万博を目指すとした。

さまざまな参加の形がありうる万博の概要を説明する大嵩豪朗さん(オンライン動画から、資料は大嵩さん提供)

 SDGsと関連するキーワード「Society 5.0」にも言及し、最先端技術を活用し、実証する機会として万博はまさに「未来社会の実験場」になるとした。そして万博のバーチャル空間では、例えば再現されたリアルな会場内をアバターなどで探検できるようにする一方で、これまでオンラインでのコミュニケーションやコミュニティ活動といった共創の中で生まれた取り組みを具現化する空間も他に必要だという議論になったという。それが「未来社会ショーケース事業」の一環として、サイバー万博(仮称)につながり、本イベントのような場を通じて「様々な人の意見を聞いてどんな空間を作っていくのかを検討している段階」だとした。

日本科学未来館の参考事例を紹介

 続いて、サイバー万博(仮称)で実施できることの参考事例として、日本科学未来館の科学コミュニケーション室・室長代理の宮原裕美さんがプロジェクトを4つ紹介した。

日本科学未来館でこれまで実施されたプロジェクトを紹介する宮原裕美さん(オンライン動画から、資料は宮原さん提供)

 そのうちの一つ、「Picture Happiness on Earth」では、中高生が協力して幸せをテーマにした映像を作った。気候変動問題や人権問題など、シナリオはアジア太平洋の国の中高生が考え、そのシナリオを元に日本の女子中高生が実際の映像を制作するという連携を実現した。各国の状況が反映されたシナリオを受け取った日本の学生が思いに突き動かされて映像作りに邁進し、「人の成長が見られる印象深いプロジェクトになった」と振り返った。

 また、「世界市民会議」には日本のナショナルパートナーとして未来館が参加してきた。デンマーク技術委員会がコーディネーターとなり、世界各国で市民100人が1日かけて例えば気候変動対策など、世界規模の課題について議論し、その結果を「世界市民の声」として国連条約の締約会議で提示する仕組みだ。震災以降、専門家だけでは見落としてしまう重要な論点を市民が拾い上げる意義が指摘され、判断のよりどころとなる価値観は市民がもたらすべきだという見方が広まってきている状況を紹介した。

個人単位で集結、子供とも対等に向き合う

 宮原さんの話を受け、齋藤さんはテクノロジーのおかげで「30年前だったら難しかったことが今だからできる」とし、万博の定義をリニューアルして今まではできなかったことをやっていくことの必要性を強調した。大嵩さんも「同じ社会課題でも視点によって見方が変わることを認識し、自分が何ができるか問いを立て直すプロセスの重要性を感じた」とした。

 齋藤さんは世界市民会議をヒントに、「国単位ではなく個人単位で集結できることがサイバーの役割なのでは」と提言し、かつてないほど多くの人が参加できるサイバー万博(仮称)では何かをみんなで決められる可能性があると期待を込めた。宮原さんもリアルの国ベースのパビリオンに対して、サイバー万博(仮称)では「国を超えて、企業でもなく所属先からは離れたネットワークが自由にできるといい」と同意した。

 さらに、未来館でのプロジェクトに参加した子供たちの柔軟な発想に触れて、齋藤さんは「新しい視点を持っている子供とも対等に向き合い、地位や国籍、年齢、性別を超えて、サイバーでコミュニケーションをとれる方法があってもいいのかもしれない」と結んだ。

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