今年6月に大阪で開かれた20カ国・地域首脳会議(G20)で、2050年までに海洋プラスチックによる汚染をゼロとする目標が合意された。また、世間ではレジ袋の廃止や有料化も話題となっている。ごみ問題を解決するために、私たち一人一人にできることは何か。20年前からごみ問題に取り組んでいる京都大学大学院地球環境学堂准教授の浅利美鈴さんにお話を聞いた。
家庭ごみの詳細な調査から見えてくる現代の暮らし
「ごみを減らすためには、行政機関や企業に働きかけをしていかなければなりません。そのためには、ごみの実態を把握しておく必要があります」
京都大学大学院地球環境学堂准教授の浅利美鈴さんは、ごみ問題の解決を目指してさまざまな取り組みを進めている。その一つが家庭から出るごみの実態を明らかにする「家庭ごみ細組成調査」だ。
日本で排出される家庭ごみの量は2000年度の5,483万トンをピークに減ってはいるものの、今でも年間4,432万トンものごみが発生している。問題は資源の無駄遣いだけではない。近年は、海まで流れついたプラスチックごみがウミガメなど海の生物に大きな影響を与える“海洋プラスチック”や、プラスチックが波や紫外線により細かく砕けて粒子となる“マイクロプラスチック”による生態系への影響も懸念されている。プラスチックの使用を減らすなどの対策が必要だ。国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」のゴール14(海の豊かさを守ろう)やゴール12(つくる責任つかう責任)を達成するためにも、ごみの減量は必須の課題だろう。
浅利さんは、京都市内の400~500世帯の家庭ごみを集めている。例えば、同じ紙ごみでもさまざまな種類がある。贈答品が入れられていた紙箱や百貨店の包装紙など、素材や用途ごとに分類して詳細に調べることで、ごみを減らすことにつながる有効な情報が得られるという。行政機関に政策提言すると同時に、特にメーカーや流通などの企業に対してごみを減らす取り組みもアドバイスしている。
「私の恩師である高月紘先生は家庭ごみの内容を把握しようとして、1980年に家庭ごみの詳細な調査を始めました。私が関わるようになった1999年からの20年間だけでも、少子高齢化や核家族化が進んだ影響で、ごみの内容は大きく様変わりしています。例えば、開封されない手つかずのままの食品が捨てられるのが目立つようになりました。このような食品ごみが発生するのは、まとめ売りされている食品を食べきれないことが一因になっていると推測されます」(浅利さん)
まとめ売りが食品ごみを生み出す一因になっているのであれば、スーパーマーケットをはじめとする流通業界に対して、まとめ売りを控えるように提案していくことが考えられる。他方、食べ切れないほどの大量の買い物を控えるよう消費者に呼びかけていく必要がある。そこで浅利さんらは、ごみ問題をはじめ、環境に対する意識を高めてもらうための活動にも取り組んでいる。
「最近はSDGsの達成が声高に求められるようになっており、環境に対する意識が高まっているように感じられます。しかし、2010年頃に京都大学に進学してきた世代は、小学校で環境教育を受けてはいても、公害が社会問題になった頃のように身の回りで環境が破壊されている原体験を持っていません。環境問題に対する知識は向上したものの、自分事としての意識が低下してしまったと感じました。このままではいけないと考え、『エコ~るど京大』を組織しました。環境月間に当たる6月を中心に、京都大学内で環境に関わるさまざまなイベントを開催するほか、多様な切り口でプロジェクトを展開して、少しでも環境問題に関心を持ってもらうようにしています」(浅利さん)
家庭ごみ調査、エコ~るど京大
「エコ~るど京大」とは、エコ×世界(ワールド)からの造語で、『Think globally, Act locally, Feel in the Campus!』を願ってつけられた。また、エコ~る(École)とはフランス語で学校を意味し、京大の中でエコを学 ぶ学校を特別に開校するという意味も込められている。
ごみ問題はSDGs全体に関わってくる世界的な課題
地球温暖化を食い止めるため温室効果ガスの排出抑制を目指した京都議定書の第一約束期間(2008~2012年度)に、日本は1990年比6%削減の「約束」を達成。このころ浅利さんは、環境に配慮した製品や取り組みを集めて展示する「びっくり!エコ100選」の開催をスタートした。その後は京都市の制度を利用し、市内の小学校等の屋上に市民の出資による太陽電池パネルを設置する「市民協働発電」を運営。太陽電池パネルを環境教育の教材として利用するとともに、そこで生み出した電気を電力会社に販売し、得られた資金を活用して、「びっくり!エコ新聞」を発行している。
「『びっくり!エコ新聞』は、市民協働発電での収益金を活用して毎号14万部を発行し、京都市立の学校に通うすべての小中高生に配布しています。また、環境問題の知識の定着につながればという想いで『3R・低炭素社会検定』を設立し、問題作成に関わっています。こうした活動で幅広い方々の環境問題への関心が高まればと考えています。また、世界に目を向けると、ごみ問題は環境問題という一面だけでなく、SDGsの17の目標すべてに関わってくる問題になっています」(浅利さん)
ごみ処理システムが発達した日本では、一般的にごみの問題は環境問題の一つとしてしか捉えられていない。しかし、発展途上国の中にはごみの回収すらままならない国もあり、ごみ問題は、国連がSDGsの達成で解決しようとしている多くの課題を内包している。例えば、集めたごみが衛生的に処理されずただ野積みされていると、周辺の住民に不衛生な環境での生活を強いることになる。また、貧困層の人々が少しでも利用できるものを求めてごみ山を探し回ることもある。
ごみ処理が未発達な発展途上国に対して日本が貢献できることはたくさんあると考えられるが、発展途上国の実情を十分に理解した人材の育成が欠かせないと浅利さんは力説する。
「日本が資金援助してごみ処理施設を造っただけではSDGsのさまざまな問題は解決しません。発展途上国では、ごみ処理システムの確立以前に、清浄な水の確保など、差し迫った課題があり、ごみ問題は後回しになりがちです。ですから、発展途上国それぞれの事情を十分に理解した上で、日本の技術を活かし新たな社会システムを作ることができる担い手の育成も欠かせないのです」(浅利さん)
そのため浅利さんは学生と共に発展途上国を訪れ、現地の実情を肌で感じてもらう取り組みも行っている。
リサイクルを前提としたモノづくりと自分の意識でごみは減らせる
SDGsは2030年までの達成を目標とする息の長い課題である。今の大学生だけでなくさらに若い世代にもSDGsを理解してもらう取り組みが求められる。国連が解決を目指す目標は幅広い。目標数は17、ターゲットは169、さらにその下に指標が244(重複を除くと232)。各課題のハードルの高さから、SDGsを小中学校の授業に取り入れることは決して簡単なことではない。
学校のリサイクル活動として、ペットボトルのフタを集める運動がある。PET樹脂と素材が異なるフタを分けて集めることは、リサイクルのしやすさから意味のある活動だ。だが、より多くのフタを集めようと、生徒の間で競争が起き、ペットボトル飲料を多く買うという子も現れた。リサイクル以前に心がけるべきリデュース(ごみの量を減らす)がないがしろになっており、3Rとは何かを子どもたちに分かりやすく伝える必要がある。
浅利さんは、「エコ~るど京大」に参加する学生たちとともに、3年ほど前からSDGsの勉強に取り組んでいる。しかし、最初の1年は効果的な方法が見いだせずに模索していたという。
「豊かな日本に住んでいると、SDGsとして掲げられている目標は他人事のようにも感じられると思います。そこで、まずは自分事として捉えてもらおうと日々の生活の中で17の目標に関わりそうな事柄を見つけ、実践することにしました。『1日・1SDGs』と題したこの活動を『びっくり!エコ新聞』で知った京都市立安朱小学校の方からお声がけいただき、SDGs教育に取り組むことになりました」(浅利さん)
浅利さんは小学生向けに17の目標を理解するための「SDGsノート」を作成した。ノートには、日々の生活の中で気づいたこと、実践したことを自由に書き込んでもらった。すると、ほとんどの児童が17のすべての目標に記入していたという。さらに、SDGsノートで得た気づきをもとにフィールドワークしてもらったところ、大人では気づかないことを見つけてきたという。
例えば、街中で邪魔になりそうな大きな岩に対して、子どもたちは、座って休憩できる大切な場所として残すべきだと考えた。いつまでも住みよい街にするには、普段は気にとめない岩も「大切なもの」と捉えられるような、柔軟な発想が大切なのだ。
このような活動により、SDGsの視点で地域の未来を考える力を持つ人材が育成でき、あわせて日本の科学技術を駆使することができれば、日本だけでなく、世界のごみ問題の解決に貢献できるだろう。
最後に、ごみ問題を解決するために、これからどのような科学技術が求められるのか聞いてみた。
「日本のリサイクル技術は非常に発達していますが、今後はリサイクルを前提としたモノづくりも求められるようになるでしょう」(浅利さん)
プラスチックに目を向ければ、技術的な課題が見えてくる。私たちが使うプラスチックは、用途に合わせてさまざまな添加剤や塗料を加えて作られているため、そのままでは元の製品と同質のプラスチック製品を再生産することは難しい。リサイクルしやすいようにプラスチックに使用する添加剤や塗料を制限することも求められるだろう。また、近年、自然界で微生物に分解される生分解性プラスチックの開発と普及が待ち望まれている。従来のプラスチックに比べて値段も高く、機能面でも優れているとは言いにくいため、改良の余地がある。
今後は、科学技術の発展に期待しつつ、これまで以上に「3R」を率先して行う、つまり、リデュースやリユースを徹底し、リサイクルを進め、プラスチックによる悪影響を減らすにはどうすれば良いのか考えていくことが求められる。環境への影響を意識し、少しの手間を惜しまず、ある程度の高コストも私たち一人一人が受け入れることで、より豊かな未来につながっていくのではないだろうか。
浅利美鈴(あさり・みすず)
京都大学 大学院地球環境学堂 准教授
家庭系廃棄物などを対象に、適正な循環・廃棄を含む製品管理システムの構築を目指し、物質フローや消費者行動のモデル化を研究。研究家活動の傍ら、京都大学のエコキャンパス化や「(一社)びっくりエコ発電所」の理事や「3R・低炭素社会検定」の事務局長も務める。