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ナトリウム冷却高速炉に惹かれ(シモン・キャペル 氏 / フランス原子力庁 研究員)

2009.04.30

シモン・キャペル 氏 / フランス原子力庁 研究員

フランス原子力庁 研究員 シモン・キャペル 氏
シモン・キャペル 氏

高速増殖原型炉「もんじゅ」の研究を行いたかったわけ

 私の年代の若者たちがよく考えるのは、「明日は、どうなるのだろうか?」ということです。「パリ国立高等鉱業学校」の学生なら、将来のエネルギー問題には特に敏感です。

 再生可能エネルギーの開発の必要性は否定しませんが、私は、科学的課題に惹(ひ)きつけられ、このコンパクトなエネルギー生産がほとんど二酸化炭素(CO2)を放出しないことを確信し、あの有名な「原子力ルネッサンス」だけに取り組んできました。しかし、正しい判断力を失わないようにするには、このエネルギー源に関する2つの重要な批判について検討しなければなりません。廃棄物の管理とウランの「限りある」埋蔵量です。

 第4世代の原子炉は、私が在籍していた工学系学校の最終年度における原子力工学の選択科目のテーマでした。提示された6つの主要概念のうち、この2つの問題にもっとも短期間でこたえることができるのは「ナトリウム冷却高速炉」(SFR)システムだということに、私はすぐに気付きました。この原子炉は、原子炉内でマイナーアクチニド(注1)の大部分を燃焼し、またウラン238を核分裂性プルトニウム239に変換できます。そのおかげで、極めて短期間で原子力産業の廃棄物の放射能レベルを天然ウランの放射能レベルまで低下することができ、さらにウランを、これまでの0.7%ではなく、100%近く活用できるようになります。これは、埋蔵量が約100倍になるのと同じことです。

 そこで、私は、SFRの研究・開発の課題に惹かれました。この分野で最先端を行っているのは、フランスと日本の2カ国です。フェニックス原子炉(注2)は、2009年に停止されますので、「もんじゅ」は、近い将来、この部門の未来を具体化することになります! 私は、それに参加することを希望しました! 私が参加することを許可し、研究チームの一員として受け入れてくださったことを日本原子力研究開発機構(JAEA)に感謝しています!

フランスと日本の高速増殖炉開発にとっての重要性

 「もんじゅ」に来て1年半になりますが、熱流動と燃料取り扱いシステムの主要2分野で研究を行ってきました。

 まず、「もんじゅ」の一次系内の自然循環特性を分析するため、JAEAの熱水力計算コードを検証する研究を担当しました。この作業は、「もんじゅ」で検討されている自然循環による冷却試験を事前に計算することを目的としています。また、自然循環による冷却性能の評価は、例えば地震の発生時における「もんじゅ」の挙動について安全当局に対して説明するのに既に役立っています。具体的には、津波が来る前の海面が引いた場合に、外部電源の喪失が同時に発生し、非常用発電機の冷却システムの冷却源が喪失し、補助ポンプによる炉心の冷却が阻止される可能性があります。この最初の研究から、私は、自然循環のような物理的現象がSFRの受動的安全性を確実に保証することを知りました。

 次に、私が担当した研究の目的は、SFRにおける燃料取り扱い方法を研究し、「もんじゅ」とフェニックスが採用した設計を比較し、さらに、熱負荷の高い燃料集合体を取り扱いピット内に移送する可能性を研究することでした。そして、SFR発電所のより「システマチックな」アプローチを発見しました。

 すなわち、原子炉部分および冷却系だけでなく、燃料の移送、より一般的には燃料サイクルがSFRシステムの重要な研究テーマであるという事実に気付きました。燃料の移送の際の検討テーマとなる「高温」集合体の好例は、マイナーアクチニドを含む「カバリング」燃料集合体です。このプロジェクトのおかげで、私は、マイナーアクチニドを「燃焼する」という目的を原子炉に組み込むということが具体的に何を意味するのかということに直面することになりました。

 さらに、燃料取り扱い作業時間が発電所の稼働率、つまり、収益性に大きく影響するということも知りました。

 要するに、私は、具体的な幾つかの問題を通じて、SFRの現在の研究・開発の主要な2つの研究テーマに取り組むことになったのです。そのテーマとは、第3世代の水炉と同等の安全性を実証することと、このシステムの経済的実行可能性を実証することです。

 若いエンジニアとしての私の貢献が、日本とフランスのSFR開発に影響を与えたと考えるのは、生意気で、日本人の感じのいい慎み深さに反することかもしれません。しかし、フランスで言われるように、私は、「自分なりの貢献をしてきました」し、その貢献が他の貢献と協力し合うことを期待しています。日本語でも言われることですが、「ちりも積もれば山となる」からです。

注釈)
(注1)マイナーアクチニド:
ウラン、プルトニウム以外の重元素(ネプツニウム、アメリシウム、キュウリウムなど)の総称。原子力発電所の使用済み燃料に含まれるが、寿命の長い放射性物質であることから、使用済み燃料の再処理あるいは保管上、取り扱いが大きな問題とされている。高速炉でウランやプルトニウムと一緒に燃やしたり、寿命の短い放射性物質に変換することで、放射性廃棄物の処理・処分に係る負担軽減を目指す研究が計画されている。

(注2)フェニックス原子炉:
高速増殖炉の研究の先進国フランスが建設した原型炉(出力約23万キロワット。1968年に着工し、73年に臨界。

フランス原子力庁 研究員 シモン・キャペル 氏
シモン・キャペル 氏
(Simon Capelle)

シモン・キャペル(Simon Capelle) 氏のプロフィール
2007年7月「パリ国立高等鉱業学校‐パリテク」の大学院で経営管理と工学の修士課程を修了。原子力工学を副専攻。フランス電力(EDF)の中性子物理学研究・開発部門で1年間のインターシップを行った後、「フランス原子力庁」(CEA)に雇用され、2007年11月、「もんじゅ」のサイトに派遣される。日本原子力研究開発機構(JAEA)のFBRプラント工学研究センター・プラント技術評価グループに配属。2008年9月、高知で開催された日本原子力学会・秋の大会で研究成果「Super-COPDを用いた、もんじゅの一次系内における自然循環の解析」を発表。

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