「原子力ルネッサンス-ウランのリサイクルに再び脚光」
長い間、冷たい風にさらされ続けてきた原子力に対する見方が、大きく変わろうとしている。米国が長年の原子力政策を転換し、ウランをリサイクルする方向にかじを切ったのをはじめ、脱原子力政策を掲げるドイツに政策見直しの可能性が指摘されるなど、欧州の原子力にも追い風現象が見られる。
日本でも、「もんじゅ」の事故などで頓挫したかに見えた核燃料サイクル技術開発が、昨年スタートした「第3期科学技術基本計画」で、国家基幹技術に据えられた。
なぜ、原子力に対する見方が内外で急に変化しつつあるのか。日本原子力研究開発機構・次世代原子力システム研究開発部門長の向 和夫氏に聞いた。
—米国の原子力政策の軌道修正がやはり大きいということでしょうか。
昨年あたりから、米国の動きが顕著になりました。まず、第4世代の原子炉について国際協力で研究開発しようではないか、という提案です。ジェネレーションⅣインタナショナルフォーラム(GIF)と名付けられています。当初10カ国、1機関でスタートしたのですが、昨年ロシアと中国が参加し、12カ国となりました。
6つのタイプの新型炉を対象としており、このうち3つが高速炉です。それぞれ冷却材が異なるのですが、本命と見られているナトリウム冷却炉(高速増殖原型炉「もんじゅ」と同タイプ)は、米国、日本、フランス、英国、韓国、欧州連合(EU)が共同開発に手を挙げています。また、中国、ロシアも参加予定です。
次に昨年2月、米国が新たに提案したのが、GNEPです。グローバル・ニュークリア・エネルギー・パートナーシップの略です。米、英、フランス、ロシア、中国の核保有国5カ国と日本を中心に呼びかけたものです。
核燃料サイクルをする国をこの6カ国に限定し、エネルギーを必要とする国には新しい原子炉を提供し、核燃料も責任を持って提供、使用済み燃料の再処理も引き受けるというものです。
核拡散がしにくい体制をつくるのが目的ですが、米国にとっては、海外の化石燃料依存度を下げ、国内の原子力産業を再構築するという狙いがあるのです。米国は、高速炉の開発を中断してから20数年になりますし、軽水炉の建設もずっとやっていません。原子力産業が、かなり衰退してしまっていますから。
—米国以外の国の現状はいかがでしょう。
フランスとロシアは実はずっと高速炉の開発を続けてきています。フランスで、プルトニウム利用に反対している政党は、緑の党だけなんです。社会党もプルトニウム利用については推進の立場を取っているのですが、社会党と緑の党の政策協定の結果、運転中だった高速増殖実証炉スーパーフェニックスの開発をやめました。公式には、経済的に高く付くという理由としましたが。代わりに運転をやめる予定だった原型炉フェニックスについては運転を継続することになり、改造した上で、2009年ごろまで運転を継続する予定です。
ロシアも原型炉「BN-600」を運転中ですし、金がなくて中断していた実証炉「BN-800」もやっと予算が付き、建設を再開しました。
英国は、もんじゅ規模の原型炉を20年くらい前に運転しており、とりあえず技術は得られたということと、北海油田の発見もあって高速増殖炉開発は中断していました。しかし、北海油田も先が見えてきたこともあり、原子力をもう一度やらなければという方向に変わりつつあります。まずは軽水炉からでしょうが。
ドイツも、燃料を入れる直前まで行っていたもんじゅ規模の原型炉を社民党政権が廃炉にしてしまって以来、脱原発路線を取っています。しかし、メルケル首相は「脱原発政策を破棄する」と言っています。代替エネルギーが見つかっていないことが大きいのです。
全体的に見ると、原子力見直し、高速炉見直しの背景には、化石燃料依存を減らさなければならない環境問題が大きく影響していますね。
(続く)
向 和夫(むかい かずお)氏のプロフィール
1947年9月広島県生まれ。73年大阪大学工学研究科修了、動力炉・核燃料開発事業団(現・日本原子力研究開発機構)入社。高速増殖炉研究開発および高速増殖原型炉「もんじゅ」建設に従事。94年10月パリ事務所長。96年2月もんじゅ建設所次長、98年10月敦賀本部技術企画部長、2003年10月もんじゅ建設所長代理、2005年10月より現職。