レポート

レポート「科学技術政策世界の動き」ー 第3回「米国2010年度予算教書概要」

2009.04.02

坂口敦 氏 / 科学技術振興機構 研究開発戦略センターフェロー

 例年度とは異なり、2010年度予算教書演説は概要説明と詳細説明の2部に分けて発表されることとなった。詳細説明は4月下旬に発表される予定であるが、概要説明は2009年2月26日に発表がなされた。概要説明から研究開発予算の全体像を把握することは出来ないが、各科学技術分野や各省庁に対するオバマ政権の意向を読み取ることができるため、以下に紹介する。なお、大統領行政府の行政管理予算局(OMB)から発表された「A New Era of Responsibility: Renewing America’s Promise」を参照して予算案を解釈しているが、現在のところ、他の公的機関からは予算案の理解に資する資料は発表されていない。

科学への投資方針

 まず、基礎研究機関の10年間での予算倍増方針を示しており、2010年度予算案では国立科学財団(NSF)の予算を2008年度比で16%増やしたことを強調している。なお、前年度比で述べていないのは、予算教書概要の発表時に2009年度歳出法が未成立であったためである。エネルギー省(DOE)科学局と国立標準技術研究所(NIST)に関しても予算を大幅に増加するとしているものの、具体的な数値は記されていない。また、基礎研究機関の予算倍増に関し、2008年9月発表のオバマ・バイデン科学イノベーション計画においては、NSF、DOE科学局、NISTに加えて国立衛生研究所(NIH)も対象機関に加えるとされていたが、言及がなされていない点が不可解である。

 次に、ハイリスク研究への投資拡大として、気候分野の基礎研究促進、全科学分野の革新、革新的新技術の創出、さらに航空輸送システムの改革促進として、航空分野の基礎研究支援、NASAの航空研究(空域管制能力、安全性、航空機性能の向上)が挙げられている。上位レベルで航空研究開発に言及がなされている点は、前政権と明らかに異なる点である。

主要省庁研究開発方針

厚生省(HHS)
 厚生省のNIHのがん研究に60億ドルを配分するとしており、これはがん研究予算倍増計画の手始めに過ぎず、景気対策法でNIHに配分された予算なども活用して、数年間で倍増を達成するとしている。なお、上記のように研究プログラム単位では明らかとなった予算もあるが、NIH全体の研究開発予算などは予算教書概要からでは分かり得ない。

エネルギー省(DOE)
 まず、景気対策法によって大型の投資がなされたDOE科学局への予算配分をさらに増強し、科学局のクリーンエネルギーとエネルギー安全保障分野の基礎研究を支援するとしている。次にDOEとしては、クリーンエネルギー開発に関して具体的には、太陽光、バイオマス、地熱、風力、二酸化炭素排出量の少ない石炭火力発電に言及しており、炭素隔離貯蔵型の石炭火力発電所を5基建設するとしているが、原発には具体的に言及してなく、あいまいな姿勢と言える。しかし、国際的なエネルギー研究への米国の関与を継続するとしており、具体的には国際熱核融合実験炉(ITER)や国際原子力パートナーシップ(GNEP)を含んでいると考えられるため、国際貢献を意図した原子力エネルギー研究には前向きであるものと推測される。その他、スマートグリッド技術やビルの省エネ技術といったエネルギー効率向上のための研究開発、気候分野の基礎研究、エネルギー分野での大学院生フェローシップ制度の拡充を挙げている。

国立科学財団(NSF)
 NSFの今後10年間での予算倍増、若手研究者支援、ハイリスク研究支援方針は前政権と同じであるが、目新しい方針は気候変動の重視である。具体的には、地球環境変動への対応戦略の策定に資する研究を優先的に支援するとしており、また気候変動教育プログラムを設置して気候変動分野での次世代の科学者を育成するとしている。

商務省(DOC)
 まず、景気対策法でのNISTへの予算配分が述べられている。これは、景気対策法と予算教書を受けて成立する2010年度歳出法とは別物であるが、景気対策法による支出が2010年度末まで続くため、景気対策法で十分に予算が付いている対象に対しては歳出法で新たに予算を組む必要がなく、予算案を設ける必要もないからである。また、NISTの主要なプログラムである技術イノベーションプログラム(TIP)と製造技術普及パートナーシップ(MEP)には景気対策法で予算が付かなかったものの、予算案ではTIPに7,000万ドル、MEPに1億2,500万ドルを配分するとしている。

航空宇宙局(NASA)
 地球環境モニタリング、有人・無人宇宙探査、スペースシャトルの2010年までの運行と後続機開発、国際宇宙ステーション構築、次世代航空輸送システムと航空機の研究開発などが挙げられており、プログラムの項目としては前政権と大きな違いは無い。航空分野に関して、革新を目的とした基礎研究に注目している点は、今後の動向が気になるところである。

国防総省(DOD)
 アフガニスタン戦争以降の国防総省の研究開発予算の増額は兵器開発が中心であったが、その兵器開発に関して高コストかつ非効率な投資であるために改善するとしている。一方で、研究開発目的にはサイバー攻撃、生物兵器、放射性物質、核兵器などへの対処を挙げており、前政権との大きな違いは見受けられない。

ページトップへ