インタビュー

第1回「高騰するウラン価格」(向 和夫 氏 / 日本原子力研究開発機構・次世代原子力システム研究開発部門長)

2007.02.07

向 和夫 氏 / 日本原子力研究開発機構・次世代原子力システム研究開発部門長

「原子力ルネッサンス-ウランのリサイクルに再び脚光」

向 和夫 氏
向 和夫 氏

長い間、冷たい風にさらされ続けてきた原子力に対する見方が、大きく変わろうとしている。米国が長年の原子力政策を転換し、ウランをリサイクルする方向にかじを切ったのをはじめ、脱原子力政策を掲げるドイツに政策見直しの可能性が指摘されるなど、欧州の原子力にも追い風現象が見られる。

日本でも、「もんじゅ」の事故などで頓挫したかに見えた核燃料サイクル技術開発が、昨年スタートした「第3期科学技術基本計画」で、国家基幹技術に据えられた。

なぜ、原子力に対する見方が内外で急に変化しつつあるのか。日本原子力研究開発機構・次世代原子力システム研究開発部門長の向 和夫氏に聞いた。

—最近、原子力に関する世界各国の姿勢、特に高速増殖炉(FBR)に対する評価が急に変わりつつあるように見えますが、なぜでしょう。

技術的な観点から言えば、3つあると思います。まずウランを有効に使わなければならないということです。軽水炉に比べ、FBRサイクルではウランを数十倍効率よく使えます。

次に放射性廃棄物です。軽水炉の場合、高レベル廃棄物として処理しなければならないものの量を、減らすことができます。高レベル廃棄物として出てくるマイナーアクチニドを炉の燃料として一緒に燃やしてしまえるからです。

同じようにフィッションプロダクトと呼ばれる核のゴミも高速中性子をあてることで、放射能を減らし、あるいはなくすこともできます。非常に長い期間、放射能を放出し続ける放射性物質を、割と短時間で放射能を小さくすることができるということです。

こうした資源、環境・廃棄物問題が、高速炉の大きな特徴といえますね。3つ目の理由は、使用済み燃料を再処理する際、プルトニウムだけを取り出すことをしないことです。マイナーアクチニドやフィッションプロダクトも炉の中で燃やしてしまう、つまり、放射能の高いマイナーアクチニドやフィッションプロダクトをプルトニウムと一緒に混ぜて扱いますから、テロの対象になりません。

こうした核不拡散上の利点もあるということなのです。

—それにしても最近の動きの速さは、激しいですが。

一例として、ウランのスポット価格は、2003年ごろ1ポンド10ドル程度だったのが、昨年暮れには、72ドルまで高騰しています。高騰の理由は、いろいろと議論されていますが、根底には、長期的にウラン資源を安定して確保していくことに対する不安感にあると考えます。

地球温暖化対策のために二酸化炭素の排出を減らすという要請もあり、化石燃料による火力に代わる基幹エネルギーとしての原子力が見直されてきたからです。それに加えて、中国特需です。

中国にはウラン資源がありませんから、資源不足がやってくるのが見えてきたのです。

米国も欧州も同じです。まず米国の動きが大きく変わってきました。カーター、クリントン民主党政権の原子力政策で、プルトニウムの民生利用をずっとやめていましたが、そうはいっても100基の原発があるわけですから、使用済み燃料がたまってきました。

放射性廃棄物の処分地としてユッカマウンテンが検討されていますが、これらの使用済み燃料を処分するには、ユッカマウンテン規模の処分地を今後10年ごとに一つずつ増やしていかなければならない計算になることが、分かってきたのです。再処理してプルトニウムを利用しないということは、大量の使用済み燃料をそのまま廃棄物として処分しなければならないからです。

とにかく、放射性廃棄物の量を減らさなければならない。そのためには正式に政策を変更し、使用済み燃料を再処理してウランをリサイクルしないといけない。中断していた高速炉の開発もしていかなければ、という動きが、昨年あたりから顕著になってきたのです。

提供:日本原子力研究開発機構
提供:日本原子力研究開発機構

(続く)

向 和夫 氏
(むかい かずお)
向 和夫 氏
(むかい かずお)

向 和夫(むかい かずお)氏のプロフィール
1947年9月広島県生まれ。73年大阪大学工学研究科修了、動力炉・核燃料開発事業団(現・日本原子力研究開発機構)入社。高速増殖炉研究開発および高速増殖原型炉「もんじゅ」建設に従事。94年10月パリ事務所長。96年2月もんじゅ建設所次長、98年10月敦賀本部技術企画部長、2003年10月もんじゅ建設所長代理、2005年10月より現職。

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