ハイライト

グローバルな情報事業の絵描けない日本(鈴木幸一 氏 / 株式会社インターネットイニシアティブ会長兼CEO)

2015.06.10

鈴木幸一 氏 / 株式会社インターネットイニシアティブ会長兼CEO

NPO法人ブロードバンド・アソシエーション主催特別講演会 基調講演(2015年5月14日)から

オーケストラも直販の時代に

株式会社インターネットイニシアティブ会長兼CEO 鈴木幸一 氏
鈴木幸一 氏

 最近、欧州の代表的なオーケストラの人に聞いたところ、そのオーケストラは過去に販売されたCDについて著作権は要求しないことにした、という。その代わり、これからはコンテンツをユーザーに直送するということだった。放送局を含む中間の業者を経由せずブロードバンドで音楽を視聴したい人に産地直送の形で音楽を提供するという。

 これまでいろいろな企業がオーケストラの演奏曲を収録したLPやCDを製作、販売して利益を得てきた。得られる利益全体のうち、オーケストラに入るのは10%程度だったという。オーケストラがコンテンツをブロードバンドで直接送り届けるようになると、間に入って事業をしていた人たちが要らなくなる。月15ユーロ(約2,100円)程度の会費を払ってくれる会員を世界中で100万人くらい集めれば、コンテンツをつくる自分たちに十分なお金が入ってくるというわけだ。

株式会社インターネットイニシアティブ会長兼CEO 鈴木幸一 氏
鈴木幸一 氏

 こうした世界の流れに日本は仕組み、制度面で完全に遅れている。日本では放送法と電気通信事業法により、放送と通信はそれぞれ別の事業として規制されている。放送と通信の区別がつかない時代になりつつあるというのにだ。グローバル化とは何か、インターネットはどこまで行くのかを考え、制度や仕組みを変えないといけない。しかし、だれも変えようとしていない。

電波はネットに

 放送局は「これからの映像は、より鮮明な4K(解像度が今のフルハイビジョンの4倍)、さらには8K(同16倍)に」などと言っている。確かに8Kの技術は日本が進んでいる。しかし、ネット配信された映像をパソコンやスマートフォンで楽しむ人が増えているというのに、本当に日本の放送局は8Kなどやるのだろうか。電波(による映像放映)は、最終的にネットに駆逐されるのではないか。コンテンツをネットで視聴する人の割合が増えると、放送に使われていた電波を別のことに使うことも可能になる。そうした現実がかなり鮮明な形になってきているのに、国は何一つ動こうとしていない。

 新聞業界も、本当に必要な人はコンテンツをつくることができる人たちで、人数でんぱで言えば2割程度だという。そのほかの印刷や販売などに関わる人たちは、インターネットでコンテンツを送るならば要らない人たちだ。新聞を購読している人たちの多くは50歳以上の人たち。戦後民主主義の時代に生きてきたこうした高齢世代に合うようなコンテンツを提供して、生き残りを図っているように見える。しかし、これではIT時代に対応して世界に伍して行けるか心配だ。コンテンツビジネスとして、負けてしまうのではないだろうか。新聞は必ず残るだろうが、今の規模で生き残れるとは思えない。

ネットの行き着く先 究極の集中

 日本は、すばらしい電話網やネットのインフラがあるのに、それを使って仕組みごと変えるような事業モデルの絵を描ける人がいない。描こうともしていないのではないか。よく売れているアイフォーンは、デザインも中の部品も日本のメーカーが圧倒的に良いものを作っている。しかし、もうけているのはアップルで、日本の企業は上納金をせっせと納めているようなものではないか。

 インターネットの行き着く先は、究極の集中だ。グローバルな情報の集中管理ということが起きる。マイナンバーの議論でも、問題とされているプライバシー保護は重要だ。しかし、あまりそこにこだわっていると、日本社会の効率性が失われていく心配がある。グローバル事業の仕組みについて国も企業も真剣に考え、ビジョンを作っていかないといけない。大きな変革時であるにもかかわらず、世界に根差しているものとずれができて、日本はおいてきぼりを食っている。

 日本の大学は情報工学科に入る学生が少ない。私らの世代と比べると学力もかなり低いようだ。ソフトウエアに夢も希望も持たない学生が増えているということだろう。情報工学科に入ると面白い仕事がたくさんある。そう国が若い人たちに提示していかないと、世界で日本はローカルな位置にとどまってしまうのではないだろうか。

(小岩井忠道)

株式会社インターネットイニシアティブ会長兼CEO 鈴木幸一 氏
鈴木幸一 氏
(すずき こういち)

鈴木幸一(すずき こういち)氏のプロフィール
早稲田大学文学部卒。1972年(社)日本能率協会入社。83年(株)日本アプライドリサーチ研究所代表取締役。ベンチャー企業の育成指導、地域開発のコンサルテーションなどを行う。92年(株)インターネットイニシアティブ企画創立。同社は93年郵政省(当時)から特別第二種電気通信事業者として認可され、外資を除けば日本で最初にインターネット接続の商用サービスを開始したインターネットサービスプロバイダーとなる。94年社名を(株)インターネットイニシアティブに変更、代表取締役社長に。2013年から現職。著書に「日々酔狂 インターネット創業10年未だ交戦中」(小学館)、「言葉の水割り-酒と煙草と、ぼくの思いはインターネット」(講談社)、「日本インターネット書紀」(講談社)など。

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