インタビュー

第4回「攻めの経営と人材多様化を」(夏野 剛 氏 / 慶應義塾大学 特別招聘教授)

2008.12.29

夏野 剛 氏 / 慶應義塾大学 特別招聘教授

「活かされていない日本の技術力」

夏野 剛 氏
夏野 剛 氏

ダーウィンの進化論を生んだガラパゴス諸島の名をとり、日本の技術やサービスが世界市場に躍り出られない現実を比喩する「ガラパゴス化」という言葉が、あちこちで聞かれる。典型的な例として挙げられるのが、日本の携帯端末とそのメーカーだ。これに対し、ガラパゴス化という表現は的を射ていないと、異論を唱える人がいる。携帯電話サービス、iモードの産みの親として知られ、いまインターネットの各種サービス分野に新たな活躍の場を求めている夏野 剛・ドワンゴ取締役、慶應義塾大学特別招聘教授に携帯サービスを中心に日本のメーカーの問題点や「ガラパゴス化」の実像を聞いた。

―iモードやおサイフケータイという日本では珍しい成功のノウハウは、ほかでは生かされていないのでしょうか。

ヤフーBBが、非常にうまく行った例ではないでしょうか。モデムをただで配り、高速のブロードバンドを広めました。世界中でこれほど急速にブロードバンドが広まったのは日本くらいしかありません。

任天堂のやり方もすごく近いと思います。サービスと電話機をつなげるのが携帯電話業界なら、ゲーム業界はソフトとハードをうまく組み合わせています。

にもかかわらず多くのメーカーに同じような大成功ができないのは、経営者のマインドのなさに問題があるのです。哲学や信念のようなものがあまり感じられない人が多いですね。どういう思いを込めてこのような製品が生まれたのか。尋ねてみれば分かるでしょう。少子化で国内市場が先細りするのは、見えています。それなのに、自分は大丈夫と思っているところは、まさに最近、顕在化している年金問題と似ています。50代以上の人たちは、多分自分たちの時代は年金制度も問題ないと思っているでしょう。しかし、40代以下は、払った分ももらえないと思っています。

50代以上の人たちが、なんとなく自分のときに手をつけなくても、という姿勢でいる。それと同じような経営者の姿勢が、日本の国力をそいでいることになっているのではないでしょうか。例えば、ソーラーパネル(太陽電池)で、世界一の企業は、ドイツのベンチャー企業です。百万キロワット級の製品を作っています。日本の企業の方が技術力は高いのに、です。ロビー活動をして、政府にソーラーパネル導入者への補助金をつけさせる。欧州のメーカーがやっているこんな活動が、日本のメーカーにはできないということです。効率のよい技術を開発し、とにかく効率を上げる。これらのことに一生懸命で、ロビー活動をして自社の戦略に反映させていくといったことができないのです。

欧州のメーカーは、太陽光発電の将来を見通し、何年か先にシリコン需要が高まるのをいち早く察知し、部品の買占めを始めているといったことも耳にします。後から気づいたときには原材料を押さえられていた。こんなことが起こるのも、経営判断の問題です。リスクをとろうとしないとこういうことになります。最近も、日本のトップメーカーであるシャープがイタリアの電力会社と組むといったニュースが報じられましたね。こうした背景が、あると思われます。

それから、携帯端末で世界進出に失敗した理由の一つに、携帯メーカーは、日本と韓国以外、ノキアも含め大体が専用メーカーだ、ということがあります。社長以下幹部がずっと携帯のことを考えています。日本のメーカーはどうでしょう。多くの事業、製品のうちの一つ、としか見ていないと思います。

世界市場を相手にするなら必要なのはアグレッシブな攻めの経営です。守りに入ったら成長はありませんから。それから人材の多様化がなんとしても急がれます。世界市場を相手にするのに、日本人だけでという方がおかしい。ソニーのCEOが英国人になっても、何も困ったことなど起きていないでしょう。どのメーカーに聞いても、人材の多様化には着手している、と言います。しかし、若手に限った話なのです。40代、50代の多様化は一向に進んでいません。遅れています。上も下も多様化しなければ駄目で、むしろ上からやった方がよいのです。

日本の技術力、手先の器用さ、国民性でどんどんよい製品を作っているのに、本当にもったいない話です。

(完)

夏野 剛 氏
(なつの たけし)
夏野 剛 氏
(なつの たけし)

夏野 剛(なつの たけし) 氏のプロフィール
1984年東京都立井草高校卒、88年早稲田大学政治経済学部経済学科卒、95年米ペンシルベニア大学経営大学院ウォートンスクール卒(経営学修士)。88年東京ガス入社、96年立ち上げに参加したインターネット関連企業 (株)ハイパーネット社の取締役副社長に。97年(株)エヌ・ティ・ティ・ドコモに誘われ、iモードの基本コンセプトを示す。ゲートウェイビジネス部メディアディレクター、ゲートウェイビジネス部コンテンツ企画担当部長、iモード企画部長を経て、2005年執行役員マルチメディアサービス部長、08年5月慶應義塾大学政策メディア研究科 特別招聘教授、08年7月(株)ドワンゴ顧問、同年12月25日同社取締役に就任。08年6月からセガサミーホールディングス株式会社、ぴあ株式会社、トランスコスモス株式会社、NTTレゾナント株式会社の社外取締役を兼務、他複数社の役員、アドバイザーを務める。01年5月米国ビジネスウィーク誌「世界eビジネスリーダー25人」、同年8月同誌「アジアのリーダー50人」に選出された。02年5月 「ウォートン・インフォシスビジネス改革大賞(Wharton Infosys Business Transformation Award)」Technology Change Leader 賞受賞。主な著書に「i モード・ストラテジー~世界はなぜ追いつけないか」(日経BP社)、「ケータイの未来」(ダイヤモンド社)など。

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