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子どもが群れる場の再構築を(仙田 満 氏 / 日本学術会議・子どもの成育環境分科会委員長、放送大学 教授)

2008.09.26

仙田 満 氏 / 日本学術会議・子どもの成育環境分科会委員長、放送大学 教授

シンポジウム「我が国の子どもの成育環境の改善にむけて」(2008年9月16日、日本学術会議 主催)開会あいさつ、討論から

日本学術会議・子どもの成育環境分科会委員長、放送大学 教授 仙田 満 氏
仙田 満 氏

 日本学術会議は昨年7月の対外報告「我が国の子どもを元気にする環境づくりのための国家的戦略の確立のために」で、政府および関連機関が行動的戦略を策定するよう提言した。その中で子どもの成育環境として「空間」「時間」「コミュニティ」「方法」の4要素についてそれぞれ施策を例示した。その後「子どもの成育環境分科会」を設け、引き続き議論を続け、まず「成育空間」についての課題と提言をまとめたのが、今回の「我が国の子どもの成育環境の改善にむけて-成育空間の課題と提言-」だ(2008年9月25日ニュース「子どもが群れて遊ぶ空間の復活を提言」参照)。

 成育空間の問題は、これまで家庭、学校、教育の問題に矮小(わいしょう)化されていたところがある。しかし、子どもの成育空間は、時間、コミュニティ、方法と密接に絡み合いながら成育環境を構成するのであって、子どもの成育環境を改善する取り組みは、総合的でなければならない。例えば小学校で4階に教室がある子どもたちは、休み時間に校庭に降りてくることができない。4階という物理的教育環境が子どもたちを孤立化し、孤独化する原因になる。

 世界的に見ても、日本の子どもたちの遊び空間は少ない。2005年に国連児童基金(ユニセフ)が出した経済協力開発機構(OECD)加盟国を対象にした報告書によると、日本の15歳の子どもたちの中で「自分を孤独だと感じる」と答えた子どもが29.8%に達する。多い国でもアイスランドの10.3%くらいで、他の国は大体が5%くらいでしかない。日本の子どもたちが、非常に孤独感、孤立感を抱いているということだ。原因は成育環境そのものに非常に大きな問題があると考えられる。

 今回の提言は、「3つの場」が極めて重要という視点に立っている。第一は「子どもが群れる場所の重要性」という視点だ。子どもが群れて遊ぶということは非常に重要な意味を持つ。ルールを守ること、耐えること、勇気を持つこと、考えて工夫すること、思いやることなどを学ぶとともに、運動能力のような基礎的な力を身につけていく。かつては道ばた、原っぱ、空き地、路地など子どもたちが群れて遊ぶ場は、地域社会の中に多数あった。しかし、今の子どもたちはこれらの場とともに、群れて遊ぶ機会も失っている。分断化してしまっている子どもたちが群れる場の再構築が求められている。

 第二は、「多くの人によって子どもが育まれる場の重要性」だ。戦後60年、少子化、核家族化の中で日本の子どもたちは親としか顔を合わせないような状況に陥っている。建築も、都市も個別的、閉鎖的な状況を加速させている。例えば、日本の住宅政策は、庭付き一戸建てが最終目的のように形作られてきた。本当によかったのだろうか。今、多くの戸建て住宅が高齢化によって子どもの姿が見えない状況になっている。世界的に見ても戸建て住宅を中心に建設して来た国は日本と米国くらいしかない。アジアの国はもちろんのこと欧州でも都市部の住宅の多くは集合住宅だ。日本も多くのコミュニティにおいて住まいの環境を考え、子どもできるだけ多くの人によって見守られながら育つような建築、都市環境を再構築することが求められている。

 第三は「子どもの視点に立つ環境形成の場の重要性」だ。子ども成育空間のためのマスタープランを各学校区、自治体が持ち、子どもたちが元気に育つ計画、活動、学習の場がつくられることが重要だ。そのためには計画、活動、運営の各段階で子どもたちの参加、参画が不可欠だ。

日本学術会議・子どもの成育環境分科会委員長、放送大学 教授 仙田 満 氏
仙田 満 氏
(せんだ みつる)

仙田 満(せんだ みつる)氏のプロフィール
1964年東京工業大学建築科卒業、68年、環境デザイン研究所を創設。82年「こどもの遊び環境の構造の研究」で学位(工学博士)取得。84年琉球大学工学部教授、88年名古屋工業大学教授、92年東京工業大学工学部・大学院教授、2005年東京工業大学名誉教授、(株)環境デザイン研究所会長、08年放送大学教授。日本学術会議会員。大学卒業直後から子どもの遊びについて関心を持ち続け、「子どもとあそび」(岩波新書)、「環境デザインの展開」(鹿島出版会)、「21世紀建築の展望」(丸善)、「環境デザイン講義」(彰国社)など著書多数。設計したこどもの国、科学館、博物館なども数多い。

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