レビュー

子どもの不慮の事故対策

2008.09.18

 日本学術会議の臨床医学委員会出生・発達分科会が、「『事故による子どもの傷害』の予防体制を構築するために」という提言をまとめ、公表した。少子化がこれほど問題になっていながら、不慮の事故から子どもを守るための社会的対応が非常に遅れていることが、よく分かる。

 提言は、コンニャクゼリーの例を詳しく紹介している。「90 年代半ばから窒息事故が発生するようになり、国民生活センターによれば、1995 年以降、約40 件起きている。特に1995、96 年に多発し、1〜6歳の幼児5人と60〜80 歳代の高齢者3人の計8人が死亡した。その後、1999年にも40 歳代の女性が死亡した。2003 年には、川崎市内の3歳児が窒息死し、病院の受け入れ態勢をめぐって裁判になった例もある。死亡に至らず、窒息による低酸素性脳症の状態で施設に入所している事例は、死亡例の数倍発生していると思われるが、実態は不明である」という。

 厚生労働省は食品衛生法に基づき「衛生上の問題』があるときには、回収を命ずることができるが、障害に関する規定はない。農林水産省、経済産業省、国民センターのいずれも強制力のある措置を取ることはできない。「通知」や「注意情報」だけを出している間にもコンニャクゼリーをのどに詰まらせて窒息死する例が起き続けている、ということだ。

 「1966 年以降、プールの吸排水口に吸い込まれて死亡した子どもは少なくとも60 人いる。箱型ブランコの底面にはさまれて死亡した子どもは23人、サッカーのゴールポストが倒れて死亡、防火シャッターにはさまれて死亡、学校の屋上の天窓から転落して死亡など、同じパターンでの死亡が起こり続けている」

 この種の事故はしばしば新聞や放送のニュースになっているのに、なぜ繰り返されるのだろうか。提言の中に次のような指摘がある。

 「事故死」は警察の管轄となっているが警察の業務は「責任の追求」。傷害を繰り返さないためには「原因の究明」が不可欠であるが、傷害が発生した詳しい状況については公開されていない。「傷害予防の研究者はほとんどおらず、研究部門や研究機関はない」ので、「問題を分析、また解決することはできない」…。

 提言に書かれているように「他の先進諸国に比べ、わが国の乳幼児の不慮の事故による死亡率は高く、…わが国においては現在も、子どもの傷害予防については全くといってよいほど取り組みはない」のも宜(むべ)なるかな、と思う人は多いのではないだろうか。

 「子どもの健康問題のナショナル・センターである国立成育医療センター研究所に『傷害予防部門』を設置」。「消費者庁の中に『子ども安全対策課』を設置」。提言はこうした具体策を挙げている。だが、先進国に比べ子どもの安全対策が遅れている日本の実態を、より多くの人たちに知ってもらうことがまず必要ではないだろうか。

 ちなみにコンニャクゼリーについてみると、「海外では、米食品医薬品局(FDA)が危険性の警告や商品の回収を実施しているほか、欧州連合(EU)も2003 年、ゼリー菓子へのコンニャクの使用を禁止している」ということだ。

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