インタビュー

第3回「人間関係、想像力、創造力も遊びから」(仙田 満 氏 / 日本学術会議「子どもを元気にする環境づくり戦略・政策検討委員会」委員長/環境建築家)

2006.12.06

仙田 満 氏 / 日本学術会議「子どもを元気にする環境づくり戦略・政策検討委員会」委員長/環境建築家

「こどもに安全で楽しい遊び場を!」

仙田 満 氏
仙田 満 氏

「人生にとって必要な知恵は、すべて幼稚園の砂場にあった」。米国の作家、ロバート・フルガムは書いている。

しかし、子どもたちの遊び場は、都市、地方を問わず急速に失われている。外で遊べない子どもたち、外で伸び伸び遊んだ経験を持たないまま大きくなってしまった大人たち。そんな人間が増えてしまった日本社会は、どのようなツケを負わされるのか。

仙田 満・日本学術会議「子どもを元気にする環境づくり戦略・政策検討委員会」委員長(東京工業大学名誉教授)に、子どもに遊び場を戻してやることの大切さと、対応策を聞いた。

—遊びのスペースは、6つに区分でき、それぞれ子どもたちに及ぼす影響も異なる、という説を唱えられていますね(注)。例えば、雑然とした工事現場や焼け跡といった「アナーキースペース」から、子どもたちは想像力を刺激されるのだ、と。

野坂昭如氏は小説「水中魂」の中で、子どもたちのために焼け跡ランドというものを、主人公に構想させています。動物学者デスモンド・モリスは「遊びは創造力をもたらす」と言っています。

人間は幼児期にいろいろな場所で多くの子どもと遊ぶことによって、人間関係を初め多くのことを学ぶのです。大学や大学院に入ってからでは遅い。人間関係というのは、意識してではなく、体で覚えるものだからです。

長年、大学の教官をやってきましたが、今の若い人はそういう意味では人間関係が不得意ですね。困難にぶつかったとき、答えは試験問題のようにすぐにあるのではないかと思っているようです。回答がない問題に突き当たった時に、乗り越えられないのです。

では、その遊びの場がどうなっているかといえば、この40~50年で子どもたちの遊び空間というのは10分の1から20分の1まで減少してしまっています。さらに問題なのは、田園地域の子どもたちも、都市化の影響を受けて、都市の子どもたち以上に厳しい影響を受けているということです。少子化のため、遊び集団が成立しなくなってしまい、95年ごろにはすでに他の都市の子どもたちと同じような状態になっています。

今、大人の3割は肥満だそうですが、特に30代の人に太っている人が目立ちます。子ども時代に運動していない、遊んでいないからでしょう。

—どうも、事態は一般の人が考える以上に深刻なようですね。遊び空間を取り戻してやる方法はありませんか。

日本の場合、平地が少ないのですから都市の立体化はやむを得ないと思います。30~60階といった高層マンションが子どもの成育に健全だとはいえませんが、他方、1戸建ても問題があるのです。

土地が少ない日本が、少子化の時代、子どもの育つ環境を考えれば、子どもの人口密度を高める方が大事です。同じくらいの年齢の子どもたちが、群れて遊べる状況をつくる必要があるのです。欧州やアジアのように共同住宅をベースにした方がいいのです。

例えば東京・江戸川区の清新町団地は10階前後の建物ですが、廊下、階段などに縦、横の導線が工夫されており、実際に子どもたちが、おにごっこをする姿がみられます。

大体、1戸建て住宅を奨励している国というのは、世界で米国と日本くらいです。理想的には、エレベーターがない4階以下の共同住宅が、日本には最もふさわしいのです。共同住宅で、それも中庭が子どもたちの遊び場になっているような。

東京・江戸川区の清新町団地 (提供:仙田 満 氏)
東京・江戸川区の清新町団地 (提供:仙田 満 氏)

仙田 満 氏
仙田 満 氏

仙田 満 氏のプロフィール
1964年東京工業大学建築科卒業、68年、環境デザイン研究所を創設。82年「こどもの遊び環境の構造の研究」で学位(工学博士)取得。84年琉球大学工学部教授、88年名古屋工業大学教授、92年東京工業大学工学部・大学院教授、2005年 (株)環境デザイン研究所会長、同年日本学術会議会員。大学卒業直後から子どもの遊びについて関心を持ち続け、著書、論文多数。設計したこどもの国、科学館、博物館なども数多い。

ページトップへ