レビュー

科学技術外交ようやく日本外交の柱に?

2015.05.13

小岩井忠道

 「科学技術外交のあり方に関する有識者懇談会」=座長:白石隆(しらいし たかし)政策研究大学院大学 学長=が、9カ月余りの検討結果をまとめた報告書を8日、岸田文雄(きしだ ふみお)外務相に提出した。

 科学技術を外交の有力なカードに、という考え方が明確な形で示されたのは、科学技術政策の司令塔ともいうべき総合科学技術会議(現 総合科学技術・イノベーション会議)の有識者議員による2007年の提言にさかのぼる。翌08年には、総合科学技術会議の動きに呼応する形で科学技術振興機構と国際協力機構(JICA)との共同プロジェクト「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」が始まった。国際共同研究によって課題を一緒に解決しながら開発途上国の科学技術の向上と自立も支援する、というのが狙いだ。

 SATREPSは、経済開発協力機構(OECD)科学技術政策委員会の小委員会である「グローバル・サイエンス・フォーラム」でも、科学技術と開発援助という2つの目的を持った先進国と開発途上国による極めてユニークな共同研究プログラムだと大きな評価を得ている(2011年8月16日インタビュー・永野博 氏・OECDグローバル・サイエンス・フォーラム 議長「国力に合った科学技術国際協力を」第3回「多様な国際協力は日本の生命線」参照)。

 今回の報告書は、SATREPSの実績も評価した上で、「科学技術外交を日本外交の柱の一つに」と、さらに科学技術外交の意義と目的を強調している。国境を越える科学技術の特性をさらに活用しようということだ。「地域および国際社会の安定につながるグローバル課題に、科学技術で貢献」など、「積極的平和外交の重要な柱」として活用する戦略や、「科学技術イノベーションを通じてグローバルな諸課題の解決を主導し、望ましい国際環境の実現を図る外交姿勢を確立する」といった具体的方向が示されている。

 より、一般の関心を呼びそうな提言として「外務大臣科学技術顧問」を試行的に設置する案が盛り込まれている。狙いは「外交政策の立案・実施における科学的知見の活用強化」。中堅・若手研究者の外交政策立案への参画を可能とする仕組みを構築するなど、科学技術顧問を中心としたネットワークづくりや、科学技術外交を支える人材育成策も求めている。中堅・若手研究者を外務大臣科学技術顧問の補佐とすることのほか「フェローシップ制度を通じ、外務省内で所管政策課題の解決に科学技術の知見を要する課や在外公館へ送り込む」「国際機関での活躍の場を広げる」ことも提言している。

 さらに報告書は、「科学技術顧問を中心に、科学技術・学術政策研究所(文部科学省)、科学技術振興機構や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のシンクタンク機能などとも連携する」ことも提言した。各省が審議会を活用する従来の手法とは、別の方策が必要だと求めているように見える。

 岸田外務相は、この報告書をどのように生かすだろうか。

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