研究開発予算の効果的な運用に不可欠とされている評価システムが、研究者の徒労感を招いており、特に若手研究者に大きな負担を強いている現状を、日本学術会議の提言が明らかにしている。
日本学術会議の「研究にかかわる『評価システム』の在り方検討委員会」(委員長、室伏きみ子・お茶の水女子大学大学院理学部教授)は、「我が国の研究評価システムの在り方〜研究者を育成・支援する評価システムへの転換〜」という提言を、10月26日公表した。
この中で、「評価結果の活用方法を事前に設定し、そのために必要な評価システムを構築する」ことを、国や資金配分機関に求めているほか、大学や研究機関に対しても「個人評価を実施する目的をあらためて定義し、評価結果の活用方法を明確にする」ことを求めた。
さらに、大型競争的資金による研究活動については、「俯瞰(ふかん)的視点からその公平性・透明性を確保するために、国および資金配分機関は、日本学術会議などの独立した組織に評価委員の選定・委嘱を依頼して評価を実施することも検討する」ことを求めた提言も含まれている。
評価そのものの目的だけでなく、評価をする人の選定においても透明性を欠くなど、研究評価システムに関わる問題は多岐にわたっていることが、提言から伺える。そもそも「現在の評価システムでは、常勤の教員や研究者の個人業績評価の結果が給与、昇任などと連動していないことが多い」というのでは、「評価作業に携わる者の徒労感を招いている」というのも当然だろう。
さらに目を引くのは、こうした不完全な評価システムが、若手研究者に及ぼす影響を指摘し、対策を求めたくだりだ。
提言は、大学や研究機関に対して「若手の教員・研究者を短期的に結果の出やすい研究へと誘導することなく、挑戦的な研究の実施を促進するような評価方法を構築する」「経歴・年齢・国籍などが多様化している状況を踏まえ、それらに配慮した評価制度を構築する」「個人業績評価結果を常勤の若手教員・研究者の処遇や資源配分へと反映するなど、評価結果の活用方策を事前に設定する」「安定的な資金を確保する努力を行うことでテニュアトラック制度を構築し、任期付き教員・研究者やポストドクターが評価結果に応じてテニュアが獲得できるように努力する」ことを求めている。
また、国や資金配分機関には「研究課題の評価において、参画している個々の若手研究者に評価資料の作成負担をかけるような評価を行うのではなく、研究代表者(PI)を中心として評価を行い、若手研究者が研究に専念できるよう配慮する」ことを求めている。
1995年に科学技術基本法が施行されたのを受けて、97年には「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法のあり方についての大綱的指針」ができた。以来、研究に関わる評価システムが本格的に導入された、という。若手の教員・研究者の育成・支援に関する提言は、評価システムによる負担が、身分が不安定な人も多い若手の教員・研究者に特に重くのしかかっている現実を反映している、ということだろう。
内田由紀子・京都大学こころの未来研究センター准教授は、当サイトに掲載されたインタビュー記事(2012年7月25日「関係志向支えるシステムの再構築を」の中で、次のように語っている。
「日本でもテニュアトラックを導入しようと、文部科学省や大学関係機関は努力しているのではないかと思うが、結局日本の大学で起こっていることは、米国でのテニュアトラックのような評価基準の策定と評価後の昇進のない、単なる『任期付き雇用』の形態の定着であるように見えてしまう。実際、若手の多くは1年から5年ぐらいの任期付き雇用で雇われるが、この任期期間中にきちんと『審査する』とは明示されてはいないし、任期が切れたときの更新や昇進がない場合もある」
今回の提言であらためて問われていることは、日本に合った評価システム自体が非常に難しい、という認識に立ち返っての見直しが必要、ということではないだろうか。