原子力規制委員会を設置するための法案が15日、衆院で可決された。与野党のすり合わせを経て合意に至った同法案では、原子炉を何年で廃炉にするかが大きな論点の一つとなった。結局、「40年で運転制限、ただし1回に限り最大20年の運転延長もできる」という当初の政府案に加えて、40年という運転制限年数自体を原子力規制委員会が見直せる規定が付則に付け加えられた。
就任中に脱原発を掲げた菅直人前首相は同日、法案が可決されたのを受けて「規制委員会の事務局となる規制庁にどのような人材を確保できるかが重要」とする一方、「自民党政権に戻れば、反省もないまま、原発推進に舞い戻りそうだ」と自身のブログサイトで感想を述べている。民主党政権である限り、原発推進には戻らないと見ているということだろう。
しかし、法案を読む限り、原子力規制委員会の構成次第で次々に40年を超えた運転が認められ、引いては脱原発という政策目標もあいまいになってしまう可能性も十分ありうる、ということではないだろうか。
原子力規制委員になりうるのは「原子力に関する専門知識と経験を有する」あるいは「高い識見を有する」人物とされている。いずれにしろ原子力専門家抜きに人選はあり得ないと考えると、7日に日本原子力学会が出した「原子力安全規制に係わる国会審議に向けての提言」と題する声明に注目せざるを得ない。声明は、運転期間を40年に制限することに対して「原子力安全規制の合理性・科学性に疑問を抱かせる」と真っ向から批判しているからだ。
40年という運転制限を不合理だとする記述を声明から書き出すと、次のようだ。
「原子炉の運転経験が限られている開発当初においては、最初の設計ベースとして30年-40年の運転を前提条件としたが、運転経験の蓄積に伴い、さまざまな設備や部品・配管等経年変化の知見を獲得し、大型設備の全面的な取り替えが可能になるなど、原子炉の寿命は60年あるいは、さらに長期との見方も出てきているところである」
「国際的には、物理的な寿命を固定的・一律的な年数で示す考え方から、定期的に施設全体の経年劣化の状態を正確に把握し、必要な改善措置を講じる方向に変わってきている。改善措置が事業者にとって対処できない、あるいは適正な負担レベルを超えると判断される時点が原子炉の寿命となるわけである」
「IAEA(国際原子力機関)は、安全用件として、定期的に経年劣化も含めた総合的な安全再評価、すなわち定期安全レビューに基づく規制制度(高経年化技術評価)を取り入れ改善を図ってきたところである。運転年数が30年を過ぎた段階から最新知見を取り入れ、厳しい総合的な安全性の再評価を実施しているわけであり、継続的な安全性向上の観点からは40年運転制限より厳しい措置を講じていると見ることができる」
原子炉の安全に関する知見、評価技術はどんどん進歩している、ということだろうが、日本原子力学会以外の人からは見ると違和感は残らないだろうか。こうした主張は、福島第一原発事故が起きる前と全く同じに見えるからだ。
「二度とこのような事故を起こさないために、学術的専門家集団として、事故を真摯(しんし)に反省して教訓を抽出し、これからの原子力安全の確保に最大限貢献することこそ重要な役割であると認識する」(2011年11月1日、日本保全学会との共同声明)という姿勢を、今回の声明から感じとれる人はあまりいないのではないだろうか。