4月1日から教員免許更新講習制度が始まる。昨年6月に成立した改正教育職員免許法に基づく教員免許制度の大きな変更だ。文部科学省の関連サイト「教員免許更新講習制度の概要」には、「目的」という項目に「不適格教員の排除を目的としたものではありません」という注意書きがついている。こうしたとらえ方をされる懸念も存在するということだろう。
この制度を積極的に活用すべきだというアピールを掲げたNPO法人「あいんしゅたいん」が、3月3日に発足した(3月4日ニュース「若手研究者支援NPO発足」参照)。このNPO法人の顧問を務める佐藤文隆 氏(甲南大学教授、京都大学名誉教授、湯川記念財団理事長)に、なぜ教員免許更新講習制度の活用が大事なのか、寄稿していただいた(4月1日オピニオン「『教員免許更新制度』を学校教育と大学・科学界を結ぶ場に」参照)。興味深い指摘が多々ある。
「私自身、教員免許を持っているが、1960年代の『理工系倍増』の前までは京大でも理学部卒業後の職業として学校(小中高)教員は自然な道の一つだったように思う」。この指摘は相当の年齢以上の人でないと、意外な感を持つ人が多いのではないか。理学部卒の職業選択肢として小・中・高校教員がそれほど自然な(高い)位置を占めていた時代があったのか、と。
学校教員の世界について「戦前の師範学校専一の人材体制が戦後の一時期には実質的に開放された時期があったのでないかと思うが、…『開放期』の教員の時期の生徒たちが今日評価される科学技術の業績を築いたのではないか?」という指摘も考えさせられる。つかの間の「開放期」はあったものの、学校教員の世界は、「社会構造の変動に伴う様々な『学校トラブル』への対応のプロ」であるという閉鎖的なプロ意識集団に戻ってしまったのではないか、という見方だ。
教員免許更新講習制度により、教員免許状は10年ごとに更新されることになった。教員には更新期限前の2年間に30時間の講習を義務づけている。講習を実施するのは大学などだ。この制度を疎遠になってしまっている学校教員と大学教員・研究者が「使命感や『教養』を共有化」するための生きた交流の場としよう、というのが佐藤 氏を初め、NPO法人「あいんしゅたいん」の人たちの目指すところだ。共有化すべき「使命感や教養」とは何か。佐藤 氏の寄稿記事やあいんしゅたいんのアピールから読み取ると「人を育てることの大切さと責任感、学問世界の価値観」ということになるだろう。
3月30日に科学技術振興機構と国立教育政策研究所が発表した「平成20年度高等学校理科教員実態調査」によると、高校理科教員の置かれている状況は厳しい(3月31日ニュース「高校で理科への興味急低下 教員調査で裏付け」参照)。学校教員だけの努力で事態打開は難しそうに見える。教員免許更新講習制度を大学教員・研究者と学校教員を結ぶ場にしよう、という大学教員・研究者からの呼びかけは、両者の連携に結実するだろうか。