インタビュー

第2回「海底プレートに年代の差?」(岡田義光 氏 / 防災科学研究所 理事長)

2011.05.02

岡田義光 氏 / 防災科学研究所 理事長

「マグニチュード9.0の衝撃」

岡田義光 氏
岡田義光 氏

東日本大震災は、福島第一原子力発電所事故の被害の深刻さに内外の目が集中している。これから原子力発電の是非を含めたエネルギー政策論議が高まるのは必至と見られる。原子力工学をはじめとする科学者、技術者は、これまで一般の国民にどれだけ正しいことを伝えてきたのか? そんな不信の声が、科学者、技術者に向けられることを心配する声も出ている。では、地震学者は今回のような地震が起きたことに対してどのように感じているのか。岡田義光・防災科学研究所理事長に聞いた。

―今回の地震が起きた三陸-茨城沖に話を戻します。どうして東海から南海にかけての地域が巨大地震を同じように繰り返して来たのに対し、日本海溝沿いではよく起きる場所とほとんど起きていなかった場所があるのでしょう。駿河トラフ-南海トラフと日本海溝ではプレートの潜り込み方に違いでもあるのでしょうか。

そこがよく分からないのです。ただ、西日本の方で潜り込んでいるフィリピン海プレートというのは、年代が若いのです。それで日本列島と、潜り込むプレートとの摩擦の度合いが大きく、どこもかしこも地震を起こすような能力が高いのではないかという考え方があります。

一方、太平洋プレートというのは、南米の沖合の海底で生まれて延々と2億年くらいかけて日本列島にたどり着くのです。日本海溝から伊豆小笠原海溝にかけての沈み込み域でようやく潜り込むわけですが、プレートができてから相当時代を経ているので、西日本の方で潜り込むフィリピン海プレートに比べると摩擦の度合いが少なくなっているのではないかという考え方があります。特に伊豆小笠原海溝ではかなり急な角度で潜っており、ほとんど巨大地震というのは起きていません。

では、三陸沖だけなぜ違うのか、ということです。まず、ここは太平洋プレートのほかの場所と比べて引っかかり方が違うのではないかという考えがあります。最近、地震の発生についてはアスペリティという考え方が有力視されているのですが、プレート沈み込みによってできるプレート同士の境界面の一部に、通常は強く固着していて地震の時だけ大きくずれ動く場所があるとする説です。そのアスペリティの大きなものが三陸沖には分布しており、このアスペリティの場所で時々M8クラスの巨大地震を起こしながら、プレート全体としては潜り込み続けている、と考えるわけです。

ところが福島や茨城の沖合ではひっかかりがあまりなく、時々小さなアスペリティを壊しているだけではないか。M7クラスの地震はたまに起こすけれども、全体としてはスムーズに潜って行く、とみられていました。日本海溝は房総半島の東方沖で南の方向に曲がり、伊豆小笠原海溝となって日本列島から離れますが、小笠原諸島の東側辺りになると小さなひっかかりもなくなり、するすると潜り込んで行く、というイメージですね。ですから三陸沖と小笠原という両極端のちょうど中間に位置する福島県や茨城県沖ではM8クラスの巨大地震は起きない、と勝手な解釈をしていたのです。

―1854年の安政東海地震(M8.4)では本来、ひずみがあまりたまっていなかった駿河トラフ側も勢いでついでに動いてしまったとも考えられる、と先ほど伺いました。同じことが今回、日本海溝のプレート潜り込み場所でも起きた、という解釈はできませんか。

そうかもしれません。今回は宮城沖で断層がずれる動きが始まり、岩手沖と福島沖に延びたけれど、あまりに勢いが激しくて福島県北部の沖合で止まらず茨城県沖の方まで来てしまった、ということでしょうか。本震の30分後にも茨城沖でM7.7の余震が起きました。ものすごい大きな余震です。1993年の北海道南西沖地震(M7.8)や1983年の日本海中部地震(M7.7)と同じくらいの規模ですから。

日本列島周辺のプレート構造
(提供:岡田 義光 氏)
日本列島周辺のプレート構造
(提供:岡田 義光 氏)

―余震というのはそもそも地震で断層が大きく動いた結果、新たなひずみができたために起きるのですか。それとも地震で一部滑り切れなかったところが、動くのでしょうか。

そうですね。地震で大きな断層面ができても、全部均一に滑るわけではなく、いわゆる滑り残しみたいなところができます。今回のように断層のずれが何十メートルにもなり、また断層面が非常に不均質ですと、周辺に大きなひずみが生じます。それらを解消するために、こちらが滑ると、今度はあちらが動かなければいけなくなる。さらにあちらが動くと、今度はまたそれを調整するためにまたこちらが動く、というようなことが起きているのだと思います。将棋倒しというか、カシャカシャ積み木を崩していくような感じで全体が壊れて行くのでは、と。

ただ、こうした動きは本震で生じた断層面の周囲で起きるのが普通なんです。ところが今回は本震の翌日に長野県北部でM6.7、日本海の秋田県沖でM6.4、さらに本震3日後には静岡県東部の富士山の近くでM6.4の地震が起きました。これほど遠くまで影響が及んで、M6級の地震が連鎖するというのは通常ではなく、思わぬところで続いた地震には大変びっくりしています。

―するとこれら離れた場所で起きた地震も偶然ではなく、本震の影響があるということですか。

そうだと思います。国土地理院のGPS(衛星利用測位システム)を利用した地殻変動データによると、まさしく観測史上初めてといってよい大きな水平変動が記録されています。本震の前と後とでは、東北地方全体が4メートルくらい東西の方向に引き伸ばされています。日本列島は通常、プレートの動きによって東西方向に押しつけられる力を受けてひずみが蓄積されています。平常時にひずみが進むスピードは年間10のマイナス7乗(1千万分の1)くらいの割合ですから、一挙にその数百倍もの大きな跳ね返りが起きた、ということをGPSによる地殻変動データは示しています。

プレートもぐり込みによる海溝型大地震の発生
(提供:岡田 義光 氏)
プレートもぐり込みによる海溝型大地震の発生
(提供:岡田 義光 氏)
逆断層による地表および地中の変形
(提供:岡田 義光 氏)
逆断層による地表および地中の変形
(提供:岡田 義光 氏)

―房総半島の先などには、過去の巨大地震によって陸側の地殻が跳ね返った跡が海岸段丘の形で見られる、という話を聞いたことがあります。今回はむしろ地盤沈下した区域が膨大だということですが、これはどういうわけでしょう。

海溝型地震で動いた断層の真上ですと隆起するのです。1923年の関東地震(M7.9)など相模トラフの断層が動いて起きる海溝型巨大地震では、房総半島の先端部が断層の真上に当たるのです。だから、地震の後には土地は隆起します。それに対して今回のように沖合で起きる海溝型巨大地震ですと、陸のあたりは断層の方向に引っ張られ、なおかつ沈降します。1946年の南海地震(M8.0)でも高知市のあたりは沈下したため、海水が入りしばらく農業ができなかったといったことが起きています。

ただし、これから先は次の巨大地震に向かって隆起が始まり、沈下は徐々に回復します。東北地方の太平洋沿岸も今は地盤沈下のため高潮や、次の津波に対して非常に脆弱な状況となっていますが、長い時間をかけてじわじわと回復していくでしょう。そして元に戻ったころ、また次の巨大地震が来る。自然はこうした繰り返しをしているわけです。

(続く)

岡田義光 氏
(おかだ よしみつ)
岡田義光 氏
(おかだ よしみつ)

岡田義光(おかだ よしみつ) 氏のプロフィール
東京生まれ。東京都立両国高校卒。1967年東京大学理学部地球物理学科卒、69年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了、70年東京大学地震研究所助手、80年理学博士号取得、国立防災科学技術センター第2研究部地殻力学研究室長、93年防災科学技術研究所地震予知研究センター長、96年同地震調査研究センター長、2001年同企画部長、06年から現職。専門は地球物理学(特に地震学および地殻変動論)。

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