判で押したように一定間隔で巨大地震が起きる地球上でもまれな場所となっている南海トラフに対し、世界的な関心がさらに高まりそうだ。世界最先端の地球深部掘削船「ちきゅう」による熊野灘での掘削も、この9月から始まる。
さて、日本列島を載せた大陸プレートの下に海底プレートが潜り込む南海トラフの、まさにプレート境界では、いったいどのようなことが起きており、それがどこまで学問的に明らかになっているか?
そんな基本的な疑問に分かりやすく答えてくれる記事が、日経サイエンス最新号(6月号)に載っている(「見え始めたプレート境界深部の挙動」=同誌編集部・中島林彦記者)。
「数十年以内に予想される東海地震と東南海地震、南海地震という巨大地震は蓄積した歪みが臨界に達し、フィリピン海プレートと陸側プレートの境界面で大規模な断層運動が起きることで生じる」。ただし、これはプレート境界のどこでも起きるわけではない。
プレートは「浅い場所ではスムーズに沈み込むが、深くなるとプレート同士が固着、歪みが蓄積する。しかし深さ30㎞を超えるあたりから固着が解け、遷移帯を経て、安定すべり域に入る」。
あまり浅いところではないが、30キロより深くないところにプレート同士が固着している境界域があり、ここが巨大地震の震源域になる、ということだ。ただし、学問的には、それより深い30〜40キロの範囲にあるプレート境界の「遷移帯」で起きている現象について、いろいろなことが分かってきたことが興味深い—。それが、記事のポイントである。
「1つは深部低周波微動。通常の地震波の振動数は10ヘルツ(周期0.1秒)前後だが、遷移帯では1〜2ヘルツ(周期0.5〜2秒)というゆっくりした揺れが連続的に発生していた」
この低周波微動の正体については、この3月、井出哲・東京大学大学院講師らが「低周波地震の群発であることを観測データの分析で明らかにした」。この結果「深部低周波微動もプレート運動によって起きていることがほぼ確実になった」という。
「もう1つは短期的スロースリップ。遷移帯の100㎞程度の領域が数日かけてゆっくりすべる現象で、約半年ごとに繰り返される。『短期的』とは愛知県内陸などで観測されている数年単位のゆっくりすべりより継続期間が短いことによる」
前述のように、巨大地震は、固着域で起きるプレート運動である。遷移帯で起きるプレート運動は、ひずみが巨大にならない前に解消してしまうので、巨大地震ほどの破壊力を持たない。このような違いが起きる理由については、どのように説明できるのか。
「遷移帯の深さになると温度圧力条件によって鉱物内の水が抜け出し、この水によってプレート境界の摩擦強度が弱まり、固着が解け始める。その結果、固着域では約100年かけて大きな歪みが蓄積されるのに対し、遷移帯では約半年程度の歪みの蓄積でプレート運動が推定されている」
日本における低周波微動やスロースリップの研究は「巨大地震に限らず、プレート運動のメカニズムを解明する上で非常に重要になっている」ようだ。(引用は日経サイエンス6月号から)