インタビュー

「後継者育成は科学者の使命-アウトリーチ義務化」(津村啓介 氏 / 内閣府政務官)

2010.07.30

津村啓介 氏 / 内閣府政務官

「後継者育成は科学者の使命-アウトリーチ義務化」

津村啓介 氏
津村啓介 氏

総合科学技術会議は6月19日、3,000万円以上の公的研究資金を獲得した研究者に国民との科学・技術対話(アウトリーチ活動)を義務づけることを決定した。研究者にとっては大きな負担になる可能性がある、と関係者からは不安の声も聞こえてくる。アウトリーチ活動義務化を積極的に進めた内閣府の津村啓介・政務官に聞いた。

昨年の事業仕分けは数多くの問題提起を含む画期的なプロジェクトだったと思う。科学技術行政についても多くの示唆が与えられた。最先端の科学技術施策は成果が出るまで長期間の時間軸が必要だし、同時に多額の国費を要する。他の施策に比べて、より確かな国民的サポートがないと、長期間、多額の資金を投入することは難しい。ゆるぎない信頼を国民一般から受けるための手伝いをするのが、行政、政治の役割だということを痛感した。

科学技術コミュニケーションについての工夫を模索する中で、最初に手がけたのは政府部内からの情報発信だ。有識者会合での情報公開や発言した議員の固有名詞を必ず付記する。パブリックコメントの充実、そのプロセスの公開。こうした政府からの情報公開、情報発信の充実に努めた。しかし政治、行政と国民、科学者コミュニティの3者の関係を考えると、政治からの発信は充実しているけれども、科学者コミュニティからの発信がまだまだ不十分ではないかと思い至った。

科学者コミュニティと政治家とのコミュニケーションをまず深める必要があると考え、総合科学技術会議と与党議員の会議を行ったり、総合科学技術会議を地方で開催するなど、新しい工夫を春ごろから始めた。そうしたところ、さっそく第1回目の地方会議で科学技術コミュニケーションについての提言が一般の方から出てきた。英国の制度を参考にしたアウトリーチ義務化の提案だった。大変興味深かったので、早速、制度の勉強を進め、公的資金で研究をしている方々に義務化することを即断した。

総合科学技術会議の有識者議員の方々はもちろん、専門調査会の委員の皆さん、そして科学コミュニケーションの世界で若手リーダーとされる方々との意見交換の場も持って、現場感覚のある国民との科学・技術対話、アウトリーチ活動の制度設計を試みた。

強調したいのは、これは総合科学技術会議の一部の議員や政務三役が立案したものではないということだ。一般の方からの提言に即座に反応して、現場の科学・技術コミュニケーションの講座を持っている准教授や助教、30代を中心とした若手の科学・技術コミュニケーターの方々など、現場の声を形にするコンセプトで進めた施策だ。先月は東大のBAP(大学院生出張授業プロジェクト)という大学院生たちの集まりに参加し、20人くらいとの意見交換も行った。

出発点は事業仕分けだけれども、国民への説明責任という発想ではない。科学・技術を長期にわたってサポートしていただける国民世論の形成と、何よりもこれから少子化を迎える日本にあって、若い優秀な人材が科学・技術に夢を持ち、科学者が尊敬される社会、文化を創るための息の長い取り組みなのだ。

こうした取り組みを政府が始めることによって、当初は第一線の科学者の方々にとまどいや想定外の負担が生じる面もあると思う。内閣府としても科学技術振興機構や日本学術振興会などに協力してもらいながら、国民との科学・技術対話の円滑なスタートのために汗をかく。例えば、相談窓口を設けるとか、あるいは「何やればよいか分からない」という人と、「うちの高校に来てほしい」という所とのマッチングなどに努める。小さく産んで大きく育てるという思いで加わっていただきたい。さらに言えば、この取り組みが中長期間継続することで、科学者コミュニティの中においても科学コミュニケーションの重要性や意義がコモンセンスとして定着していくことを願いたい。

私は、後継者を見いだし育てていくことは科学者の大事な哲学であり、社会的使命だと思っている。科学というのは一代の科学者の立身出世や名誉のためのあるのではない。やはり継続性・持続性のようなものが非常に重要なのだから、素晴らしい研究をする人は自分の研究を継ぐ後進を育てることにぜひ努力していただきたい。

今回の国民との科学・技術対話という取り組みがその一助となることを願っている。

(科学新聞 中村 直樹)

(完)

津村啓介 氏
(つむら けいすけ)
津村啓介 氏
(つむら けいすけ)

津村啓介(つむら けいすけ) 氏のプロフィール
岡山県津山市生まれ。1990年麻布高校卒、94年東京大学法学部(政治コース)卒、日本銀行入行、オックスフォード大学経営学修士(MBA)、英外務省チーブニング・スカラーシップ奨学生。2002年民主党衆議院選挙候補者公募合格者第1号。03年衆議院選挙で初当選。現在3期目。鳩山内閣で内閣府政務官に就任。担当は国家戦略、経済財政政策、科学技術政策、地域主権推進、知的財産戦略、IT戦略など。毎週1回開催される総合科学技術会議有識者議員と担当大臣との会合には必ず出席し、関係する専門調査会などにも出席するなど科学技術政策策定に大きな役割を果たしている。

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