すべての体細胞へ分化する能力を持つ多能性細胞から、神経系細胞や皮膚表皮細胞に分化する一歩手前の前駆細胞である外胚葉への分化を司る遺伝子を理化学研究所の研究チームが発見した。
多能性細胞は脊椎動物の初期胚に存在し、この細胞が分化すると、最初に外胚葉、中胚葉、内胚葉の3つの胚葉が形成される。多能性細胞を未分化なまま試験管内で培養して無限に増やすことができるようにしたのが胚性幹細胞(ES細胞)で、体細胞からES細胞と同様な多能性細胞を作り出したのが、人工多能性幹細胞(iPS細胞)だ。
これまで多能性細胞から、中胚葉(筋肉、骨、血液などになる)、内胚葉(消化器、呼吸器などになる)への分化は、Nodalと呼ばれる分泌性タンパク質などが作用することで制御されていることがわかっている。しかし、外胚葉については分化決定因子が分かっていなかった。
再生科学総合研究センター細胞分化・器官発生研究グループの笹井芳樹グループディレクター、笹井紀明研究員らは、約2万種類の遺伝子(RNA)をアフリカツメガエル胚へ微量注入する方法により「XFDL156」という核内タンパク質をコードしている遺伝子が、外胚葉への分化を決定する因子であることを突き止めた。さらに、マウスを使った実験でも、この遺伝子に相当するZfp12とZfp74が、分化決定因子であることも確かめた。これらの遺伝子は、がん抑制遺伝子としてよく知られているp53に核内で結合し、その働きを阻害することで、中胚葉分化を抑制し、外胚葉分化を促進していることも明らかにした。
ES細胞やiPS細胞は、再生医療の切り札になるとの期待が大きいが、臨床応用までには多くの研究を積み重ねることが必要といわれている。ES細胞などの多能性幹細胞から外胚葉へ分化する制御機構を分子レベルで明らかにしたことは、再生医療への応用を考える上で重要な成果だ、と研究チームは言っている。