いつも高校の大先輩に連れて行っていただく都心のクラブでの話だ。「かんだやぶそば」の経営者が、前日の19日夜に起きた火災について話しているテレビ画面が目に入った。「今日現場に行ってみたら外装はだいぶ残っていたね。それほどかからず営業再開できるのでは」。同じ画面を見ていたマスメディア業界の重鎮から教えられる。
「よく行く店だし、気になって」ということだが、この方の職場から歩いてすぐという場所ではない。専用の車で行ったとしても、現場を大事にする記者魂はさすが、と敬服する。とにかくこのような客がたくさん付いていては、「かんだやぶ」も早々に再出発を期さなければならないだろう。
前日、高橋靖水戸市長を会長とする観光産業振興会議の広報・宣伝部会というのに出てきた。「水戸ならではの特色・味わいを伝える観光PRについて」というのが、この日のテーマだった。他県の人から観光の見所を聞かれると「まあ、ろくな所ないね」などと答える県民が多いのが問題—。そんな指摘がこの日の会合でも出たが、これはよく分かる。編集者自身、覚えがあるから。
建前ばかりを並べたような形式的な話は、聞いているふりはしてもまともに耳を傾けない。しかし、議論が嫌いなわけでは決してない、といった一筋縄ではいかない人間が多い土地柄である。水戸の魅力、茨城の良さをもっと多くの人たちに知って来てもらいたい。という思いはあれど、具体的な努力が伴わない、というのが古くて新しい課題ということだろう。
偕楽園という自慢の観光スポットを持つのだから、まずここを観てもらい、もう1、2箇所見所へ導く観光コース(歩けるかバスで移動できることが大事)を宣伝する。最初は最もお勧めコースの知名度アップに力を注ぎ、徐々に選択肢(コース)を増やしていく。こうした広報宣伝活動だけでも着実な効果が期待できるのでは…。
機会があったら一言と思っていたのだが、部会員たちの発言が途切れず結局、皆の意見を聞くだけで終わってしまった。
水戸に用事があると、早めに出かけて好きなそば店に寄ることにしている。その店を知ったのは、20年ほど前になるだろうか。原子力安全委員会初の公開ヒヤリング(関電高浜原発3、4号機、1980年)や、つくば科学博覧会(1985年)で一緒に仕事をしたこともある通信社時代の先輩から教えられた。
水戸支局長として赴任していたこの先輩を支局に訪ね、この店に案内された時に感心したのを覚えている。「そば好きは、どこでもしっかりうまい店を見つけるものだ」と。
水戸から帰る常磐線の車中で、旧知の永野博氏(政策研究大学院大学教授、元文部科学官僚)からいただいた著書「世界が競う次世代リーダーの養成」(日本科学社)を読み終えた。氏とは、東京・白金の有名なそば店で一杯飲んだりしたこともある仲だ。新著の内容にはこれまで、直接、聞いていたこともいくつかあったが、日本の科学、技術力の将来が非常に心配になるような話が、次から次と出て来る。
永野氏が最も行数を割いているのが、若手研究者を育成する支援の仕組みについてだ。主な欧米諸国ばかりか、オーストラリア、韓国、中国、インドなどよりも見劣りするようになってしまっている、というのである。科学技術を一からつくりあげてきた欧米先進国と、明治以降、海外から大急ぎで導入した日本との間には、容易に埋められない差があるということだろうか。
英国政府の首席科学顧問や、王立協会会長を務めたこともあるロバート・メイ・オクスフォード大学教授が永野氏に語った言葉が紹介されている。「リスクを取ってでも若者に賭ける気風が英国にはあるのだ」