レビュー

東京が大地震に直撃される頻度は?

2009.02.12

 東京大学地震研究所主催の公開講義・展示「関東大震災から85年。首都直下型地震に備えて-次の東京の大地震-」が、8日、同大学内で開かれた。地震学者、地質学者たちが「危険度はどのくらいあるのか」という一般の疑問に丁寧にこたえていた。

 平田直 氏・東京大学地震予知研究推進センター教授は、「南関東で発生するマグニチュード(M)7程度の地震の今後30年以内の発生確率は70%程度」という政府の地震予知研究推進本部による予測結果について、どのような根拠によるものかを説明した。かいつまんでいうと、まず関東大地震(1923年)型の地震(筆者注:相模灘を縦断する相模トラフの断層がずれて起こる大地震)は、240年以上の間隔でしか起きないので当面、心配ないとみなして除外。不規則に発生しているみなされた1894年の地震(M7.09)から1987年の地震(M6.7)まで南関東で起きたM7クラスの地震5つを考慮して「今後30年以内の発生確率は70%程度」を導き出したということだ。

 さて、この「今後30年以内に70%程度」という予測は、首都圏に住むどのくらい人に知られているのだろうか。

 地震予知研究推進本部の「全国を概観した地震動予測地図2008年版」によると、「確率論的地震動予測地図」というのがまず出てくる。その中で比較的知られているのは「今後30 年以内に震度6弱以上になる確率の地図」ではないだろうか。伊豆半島から東海、紀伊半島、四国の太平洋に面した地域が、もっとも危険度が高い小豆色(確率は26%以上)で表示されている。南関東地域はどうか。小田原近辺など伊豆半島寄りの一部を除き、橙色(確率6-26%)だ。「今後30年以内に70%程度」という予測から受ける印象とは、だいぶ違う。

 では、平田 氏が紹介した「マグニチュード(M)7程度の地震の今後30年以内の発生確率は70%程度」と「今後30 年以内に震度6弱以上になる確率6-26%」との関係はどうなっているか。地震予知研究推進本部の「全国を概観した地震動予測地図2008年版」を見てみると、前述の「確率論的地震動予測地図」のほかにもうひとつ、「主要な活断層や海溝型地震(プレートの沈み込みに伴う地震)の活動間隔、次の地震の発生可能性、場所、規模(マグニチュード)および発生確率などを評価した」という予測値も公表されているのだ。こちらに、南関東で起きるM7程度の地震の発生確率として「30年以内70%程度」という数字が確かに示されている。この30年以内の予測値と並び「10年以内30%程度」「50年以内に90%程度」という数値も示されている。こちらを見れば「M7くらいの地震は(近いうちに)必ず来る」(平田 氏)と言われても、なるほどというほかないだろう。

 前述したように、この予測には関東大地震(1923年)、元禄関東地震(1703年)タイプのM8クラスの地震はのぞかれている。当分来ないから、という理由からだ。これらの巨大地震は相模トラフが一挙にずれて起こる地震だが、これらの発生頻度についてもこの数年で研究が急に進んだことが、シンポジウムを傍聴してみて分かる。

 会場ロビーの展示の中に、房総半島海岸でみられる隆起の繰り返しパターンから、相模トラフがずれて起きた巨大地震の発生時期と周期を割り出した図があった。海溝型と呼ばれるこのタイプの地震が起きると、陸側はひずみを解消して跳ね上がるため隆起する。こうした地震は何度も起きているから、海岸近くに段差のある地形として、巨大地震の跡が記録されているわけだ。巨大地震ごとに海岸線が海側にずれ、陸が広がる。房総半島南端の太平洋に面した海岸沿いには、こうした何段にも段差が見られる地形がはっきりしており、隆起により干上がった昔の岩礁に残された生物の遺骸(がい)から、隆起した(地震が起きた)年代が割り出せる。

 こうした研究が進んだ結果、1703年の元禄関東地震(M8.1)の前に、約2,000-2,300年の間隔をおいて少なくとも3回、同規模の巨大地震が起きていることが分かった。

 興味深いのは、元禄関東地震から220年後に起きた関東大地震は、元禄関東地震の仲間には入らない、“小ぶり”の巨大地震ということだ。確かに元禄関東地震の8.1に比べ、関東大地震のマグニチュードは7.9と小さい。海岸隆起量が元禄関東地震型ほど大きくないこともこれを裏付けている。元禄関東地震型の巨大地震は、約2,000-2,300年という極めてまれにしか起きないのに対し、関東大地震規模の海溝型巨大地震は、平均400年の間隔で繰り返し起きていることが、房総半島南端の海岸地形が物語っているという。

 南関東は、東海から四国沖にかけての南海トラフ沿いに比べて巨大地震の危険は小さいというのは“過去の常識”ということのようだ。ちなみに極めてまれにしか起きない元禄型関東地震の規模が飛び抜けて大きいのはなぜか。「相模トラフは房総半島の南方沖で、南向きから南東向きに曲がっていると最近、考えられている。元禄型関東地震は、ずれた断層の南端が関東大地震でずれたところで終わらず、さらに南東方向へ曲がったトラフ部分も同時にずれたためと考えられている」(武村雅之・鹿島建設小堀研究室プリンシパル・リサーチャー)という。

 これまで繰り返し巨大地震を起こしている南海トラフでは、東海地震、東南海地震、南海地震など個別の地震と、これらが続けざまないし一度に起きる連動型地震の発生パターンがあることが注目されている。首都圏を直撃する相模トラフで起きる海溝型地震でも、関東大地震型の単独タイプと元禄関東地震型の連動タイプがあるということのようだ。

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