レビュー

温暖化対策で水災害への関心高まる

2008.07.17

 東京、特に下町に住んだことがある一定年齢以上の人々は、東京ですら洪水で街が水浸しになることがしばしばあった現実を知っている。しかし、通常は思い起こすこともない記憶でしかなく、特に多くの若い人々にとって水災害は、テレビニュースで時々、目にする程度の非日常的な出来事になっているのではないだろうか。

 7-9日に行われた洞爺湖サミットでは、CO2排出削減目標をいかに各国共有の目標にするかに気候変動問題の関心が集中する形となった。しかし、ここに来て、水災害対策に対する関心が温暖化対策との絡みで、急に高まりつつあるように見える。

 このサイトでも、今週から掲載している三村信男・茨城大学教授のインタビュー記事「温暖化対策は2正面作戦で」に、温暖化に対する「適応策」の重要性と緊急性が指摘されている。その適応策の中でも、日本をはじめ、多くの国々で急がれているのが水災害対策ということだ。6月19日に東京で開かれた「太平洋島嶼国の環境と支援を考える国際シンポジウム」では、サンゴ環礁から成る南太平洋の島嶼国ツバルの環境局長が、日本の支援を求める講演を行った。ツバルは、温暖化による台風など気象現象の激化や海面上昇で、国土が破壊や水没の危機に直面している(2008年7月4日ハイライト・マタイオ・テキネネ・ツバル天然資源・環境省環境局長「気候変動に最も弱い島国に支援を」参照)。

 6月26日には、日本学術会議の国土・社会と自然災害分科会が「地球環境の変化に伴う水災害への適応という提言をまとめ、公表した。その中に次のようなくだりがある。

 「昭和20〜40年代の激甚な水災害の経験がすでに風化している。当時と比べて、その後、河川整備、治山・砂防がある程度進み、常襲地帯を除いて災害体験が少ない。行政の災害対応部局の職員ですら災害体験がない。担当者が短期的に交代している。専門員がほとんどいない。核家族化や新住民の移入が進行している」

 かつて何度も悲惨な被害をもたらした水災害に対して、日本の国土も一定の備えができている。しかし、その半面、地球温暖化によって近い将来、予想される洪水や土砂災害に対しては、逆に抵抗力の小さな国になってしまっている、ということだ。

 国土・社会と自然災害分科会の提言は、「人口の4分の1強が住む関東地方の沖積平野部では洪水時の河川水面よりも低い土地が大半を占め、人口・資産が集積している東京の低平デルタ地帯では海面下の土地が多いため、洪水や高潮に対する脆弱性が先進諸外国に比べて格段に高い」など、東京、大阪、名古屋といった日本の中枢都市が水災害に対し極めて弱い地域であることを指摘している。

 これら大都市圏が大洪水時に堤防が破提すると被害は甚大で、国の政治的・経済的安全保障上重大な事態に陥る危険性があるとして「高規格堤防のような防災施設の建設を積極的に進める」ことなどを提言している。

 他方、人口減少が進む地方では、「自然災害に対しても強いコンパクトな都市・農山漁村づくりに向けた投資が検討されるべきである」という。「地方では人口が減少するとともに、都市郊外に居住空間などが拡大している分散型社会構造を支えてきた安価なエネルギー供給の不確実性は高まっている。行政サービスが非効率となる分散型社会構造を取ることは次第に困難になっている」という現実を見据えての提言だ。

 これまでの国土開発、都市計画の延長線上では、もはや水災害に強い国づくりは望めないとの観点に立ち、「全国一律ではない流域・地域の特性や脆弱性を十分に把握した上での効率的な評価・投資」という国土再形成の必要を指摘している。

 また、国内だけでなく、同じ脆弱性を抱えた途上国支援も新しい考え方に基づいて行わなければならない、と指摘しているのが、提言の特徴といえる。特に強調されているのが「防災支援と開発支援の一体化」だ。これは、防災を災害後の救援を中心とした人道支援ではなく、あらゆる開発行為に付随して計画、実行されるべきものという考えに基づく。政府開発援助(ODA)も、すべての項目で災害リスク影響評価の実施を義務化することが必要になるということだ。

 CO2排出削減の国際的枠組みが日本にとって有利か否か、といった論議を超えた新しい考えに基づく国際貢献が日本に求められているということだろうか。

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