インタビュー

第4回「マテリアルリスクにも国際的取り組みを」(山本良一 氏 / 東京大学 生産技術研究所 教授)

2007.01.23

山本良一 氏 / 東京大学 生産技術研究所 教授

「持続可能な地球目指して」

山本良一 氏
山本良一 氏

CO2(二酸化炭素)の排出削減をはじめ、持続可能な地球を目指す動きが世界各地で進められている。2006年の先進主要8カ国首脳会議(G8サミット)には、G8各国とブラジル、中国、インドの学術会議が連名で、G8首脳あて早急な温暖化対策を求める提言を出した。
この12月になって、2040年の夏には北極海の氷はほとんど消失するという衝撃的な予測が、米国の研究チームから発表された。「温暖化対策はすでに手遅れかも」。悲観的な声も研究者から聞かれ始めている一方、国内の企業や一般市民の危機意識は、それほどでもないように見える。

循環型社会、脱温暖化社会を求め、早くから積極的な研究活動、社会への発信を続ける山本良一・東京大学生産技術研究所教授に、今、日本の社会、国民に求められているのは何か、を聞いた。

—気候変動との戦いは、社会のあらゆる人々や組織が取り組まなければならないということですが。

日本が明らかに遅れていることの一つは、環境や社会に対する責任を十分考えて経営している企業に、お金が回っていないということです。このような会社の株を優先的に購入するという投資行動が、欧米に比べ非常に少ないのです。

SRI、ソーシャル・リスポンシビリティ・インベストメント(注1)といわれる投資が、欧米中心に拡大しています。社会や地域への貢献、環境問題への積極的な取り組みを経営にとりいれている企業を評価し、投資する手法です。米国の場合、このSRIの額が240兆円に上っています。欧州諸国も40兆円くらいあると思いますが、日本の場合、たった2,000億円程度しかないのです。

これは何とかしなければならないということで、環境格付け指標、格付け手法、情報公開方法の開発を、社会技術研究開発センターの公募型プログラム「循環型社会」の中でやってもらいました。社会的責任経営をしている企業を格付けする手法を開発しないと、投資家も、どの会社に投資していいか分かりませんから。

格付けは、企業にきちんとヒヤリングして定量的指標に基づいて判定します。結果は、3本の枝を持つ木についている60枚の葉っぱの色で表します。青々としている木はよく、秋の紅葉のようになってしまっているのはよくないというように、分かりやすく表示されます。

開発された手法である「環境経営格付」(注3)は、公表されていますから、日本でもSRIファンドはこうした方法で環境格付けにどんどん使っていただきたいと思います。

—企業を後押しする具体的な行動がないと、持続可能な社会、循環型社会の実現は望めないということでしょうか。

欧州連合(EU)は、ROHS指令(注2)というものを実施しています。電気電子機器に有害な物質は使えないという規制ですから、これに合わなければ欧州では製品が売れません。一つ一つの部品すべてを追いかけて基準を達成しなければならないので大変です。日本の大きな電気電子メーカーになると6,000もの子会社にすべてこの基準を守らさなければなりませんから。

しかし、日本企業くらいしか、ROHS指令に合った製品は作れないかもしれません。環境に配慮したものづくり、エコプロダクトで世界をリードしている日本としては、いっそうの国際貢献を果たすべきだと言えます。

実は循環型社会という言葉も、適切とは言えないのです。使い捨て型経済から循環型経済へという主張は、基本的に正しいのですが。

例えば、全世界で使われている鉄は150億トン位あります。これを毎年、全部リサイクルしていたら、莫大なエネルギーが必要となり、そのために大量の二酸化炭素も出てしまうから不可能です。循環型社会がそのまま持続可能な社会ではないのです。

マテリアルリスク、つまり、資源の枯渇を考えて資源の生産性を革命的に上げることを追求する一方、いかに有害物質をコントロールして、リスクを回避するかに問題を設定し直す必要があります。

脱温暖化社会に向けた取り組み、気候変動リスクについては国際的な対応が進んでいます。しかし、マテリアルリスクは政策目標が設定されていません。こちらの方も早く国際的なメカニズムをつくらないと、持続可能な地球という目標は達成できないのです。

サステナブル経営格付・2005年度参加企業平均ツリー図
資料提供:環境経営学会

注釈

  • ※1
    SRI(ソーシャル・リスポンシビリティ・インベストメント)=企業などに社会的な責任を果たさせようとするために行う投資。社会的責任の評価基準としては、法令順守、環境、雇用、健康・安全、教育、福祉、人権、地域などさまざまな社会的問題への対応や積極的活動が対象。
  • ※2
    ROHS指令(Restriction of Hazardous Substances(危険物質に関する制限))=指令が施行された昨年7月1日以降、鉛、水銀、カドミウム、6価クロム、ポリ臭化ビフェニル、ポリ臭化ジフェニルエーテルを含む新しい電子電気製品はEU市場に出せなくなった。(2006年7月7日 レビュー「日本企業も化学物質規制の国際的流れに対応」参照)
  • ※3
    環境経営格付=特定非営利活動法人「環境経営学会」の外局として2001年11月に設立された「環境経営格付機構 」が、運用している。同機構のホームページには、代表的な企業の各年の環境経営格付が公表されている。

山本良一 氏(やまもと りょういち)
山本良一 氏(やまもと りょういち)

山本良一(やまもと りょういち)氏のプロフィール
1969年東京大学工学部冶金学科卒業、74年同大学院博士課程修了、89年同先端科学技術センター教授、2001年同国際・産学共同研究センター長などを経て、04年から現職。文部科学省の科学官も兼ねる。環境への影響に配慮した材料、エコマテリアルの概念を提唱するなど、早くから環境負荷の小さな社会への転換を唱えてきた。ISO/TC207/SC3(環境ラベル)日本国内委員会委員長など社会的な活動は多方面にわたる。01年度にスタートした科学技術振興機構社会技術研究開発センターの公募型プログラム「循環型社会」社会技術研究開発センターの公募型プログラム「循環型社会」の研究総括も務める。

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