インタビュー

第2回「民主主義の土台に金が使われてない」(山本良一 氏 / 東京大学 生産技術研究所 教授)

2007.01.09

山本良一 氏 / 東京大学 生産技術研究所 教授

「持続可能な地球目指して」

山本良一 氏
山本良一 氏

CO2(二酸化炭素)の排出削減をはじめ、持続可能な地球を目指す動きが世界各地で進められている。2006年の先進主要8カ国首脳会議(G8サミット)には、G8各国とブラジル、中国、インドの学術会議が連名で、G8首脳あて早急な温暖化対策を求める提言を出した。
この12月になって、2040年の夏には北極海の氷はほとんど消失するという衝撃的な予測が、米国の研究チームから発表された。「温暖化対策はすでに手遅れかも」。悲観的な声も研究者から聞かれ始めている一方、国内の企業や一般市民の危機意識は、それほどでもないように見える。

循環型社会、脱温暖化社会を求め、早くから積極的な研究活動、社会への発信を続ける山本良一・東京大学生産技術研究所教授に、今、日本の社会、国民に求められているのは何か、を聞いた。

—地球環境の現状について、市民がもっと理解することが大事だということですが、なぜかということを、もう少しお話しください。

市民がきちんと理解しないことには、政策を決める人間が、適切な意思決定などできないのです。民主主義国家の下では、市民が選挙の投票行動で示さない限り。

一方、常に建設途上にある。それが科学です。最先端、フロンティアであればあるほど、不確実なところは大きくなります。すでに定説化されたもの、まだ建設途上(の科学的知見)の両方を見て、社会的な意思決定をしなければなりません。

これが大変なのです。いろいろなやり方で情報のプラットホームをつくっておいて、簡単に市民がアクセスできる状況を用意しておくことが必要です。

ところが行政のしていることは、情報をつくる人間に「もうちょっと市民に分かりやすく説明しろ」と言っているだけです。これは生産者側の論理なのですね。情報の受け手である消費者(市民)側に立った取り組みが、圧倒的に弱いのです。

日本は、科学技術を発展させる方には大量のお金を投入する。しかし、民主主義の土台であるコミュニケーションには、ほとんどお金が使われていないという恐るべき状況になっているのです。

—となると情報のプラットホームがまず用意されないと、何も始まりませんね。

政治家や行政にしてみれば、どちらが正しいか、どこまで正しいのかを、聞きたいわけですよ。だから、意思決定する側も、仕掛けをつくらなければならないんです。例えば公聴会を開き、賛成派、反対派に論争を定期的にやらせて、それをまとめて世間に公表するといった。

日本はそこのところの仕掛けがないんです。賛成、反対の言いっぱなしになってしまっている、というのが現状です。私たちがまとめた「気候変動プラス2℃」(注)のようなものが複数あれば、市民は適切に判断できるのではないかと思います。

日本にも温暖化対策に批判派と賛成派の学者がいます。社会は複雑化しており、例えば食糧自給の問題一つとっても、にわかには結論は出ません。原子力発電だって1人の人間がぐちゃぐちゃ言っても、だれも信用できません。

無知蒙昧(もうまい)な市民と、ものすごく訓練を積んだ科学者がいる。まずは、こうした考えを打破して、科学者が謙虚にいまの状況を認めなければいけません。

実は市民レベルの理解度は、日本も米国もほとんど同じだと思います。違うのは専門家の方が、米国は科学的というか、政治的だということです。米国の科学者の中にもMIT(マサチューセッツ工科大)のリーガン教授のように、温暖化批判のリーダーのような人もいれば、一方、温暖化はすでに深刻な状況だ、と主張するNASA(米航空宇宙局)のハンセン博士のような人もいます。日本と異なるのは、どちらの側もどんどん行動を起こすことです。

「気候変動+2℃」
「気候変動+2℃」

注)
「気候変動プラス2℃」=山本良一氏の責任編集で、2006年3月ダイヤモンド社から発行された。1950年から現在までの地球の平均気温の変化を示す分布図と、今後、世界経済が高度成長を続けるという前提(「気候変動に関する政府間パネル」のA1シナリオ)のもとに、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」で2100年までを予測した分布図が、3年おきに載っている。2℃というのは、工業化(産業革命)以前に比べ、これ以上の温度上昇があると気候変動が手に負えなくなるとされる数値。予測図によると2028年にこの危険値を超える。

山本良一 氏(やまもと りょういち)
山本良一 氏(やまもと りょういち)

山本良一(やまもと りょういち)氏のプロフィール
1969年東京大学工学部冶金学科卒業、74年同大学院博士課程修了、89年同先端科学技術センター教授、2001年同国際・産学共同研究センター長などを経て、04年から現職。文部科学省の科学官も兼ねる。環境への影響に配慮した材料、エコマテリアルの概念を提唱するなど、早くから環境負荷の小さな社会への転換を唱えてきた。ISO/TC207/SC3(環境ラベル)日本国内委員会委員長など社会的な活動は多方面にわたる。01年度にスタートした科学技術振興機構社会技術研究開発センターの公募型プログラム「循環型社会」社会技術研究開発センターの公募型プログラム「循環型社会」の研究総括も務める。

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