レポート

科学のおすすめ本ー 主要国の科学技術情勢

2012.08.28

推薦者/サイエンスポータル編集委員

主要国の科学技術情勢
 ISBN: 978-4-86345-132-2
 定 価: 1,200円+税
 編 者: 科学技術振興機構 研究開発戦略センター
 発 行: 丸善プラネット
 頁: 214頁
 発行日: 2012年6月30日

主要国の科学技術政策にとりわけ今、日本が関心を持たなければならない理由は何か。編者は日本の現状を「科学技術イノベーションを振興する方策も実施されているが、政権交代などの混乱によりあまり顕著な成果が見られていない状況にある」と見た上で、「中国を含む先進各国がどのような考え方でこの危機を乗り越えようとしているかを知ることは、極めて重要なこと」と説明している。

最も紙数を割いているのは米国で、2007年に「米国競争力法」を成立させるなど、21世紀になっても引き続きノベーション創出による競争力強化の取り組みに力を注いでいることを紹介している。具体的には、NSF(米科学財団)、NIST(米国立標準研究所)、DOE(米エネルギー省)科学局の予算倍増や、理数系教育の強化、ARPA-E(エネルギー高等研究計画局)の設立といった動きだ。

現オバマ政権もリーマンショック後の景気後退に対し、「社会的課題の解決、雇用を確保し経済成長を実現するための手段」として科学技術を活用する方針を明確にしている。09年に成立させた「米国再生再投資法」によって「科学、医療、交通、環境保護、社会インフラなど多岐にわたる分野への投資によって雇用と需要を創出する」ことを狙っている。

リーマンショックで自慢の金融業が大打撃を受けた英国はどうか。産業革命後に衰退し、以後、軽視されてきた製造業を重視しようという動きが出てきたことが紹介されている。製造業の拠点整備に加え、2011年に始まった「See Inside Manufacturingプログラム」のように、若い世代を製造業に引き入れようとする試みが始まっていることなどだ。

2009年に「研究・イノベーション国家戦略」を策定し、4年間で「保健、福祉、食料、バイオテクノロジー」「環境への緊急対策とエコテクノロジー」「情報、通信、ナノテクノロジー」の3分野に、集中的に資源を投下する方向を打ち出したフランス。2010年までの2年余の間に4兆元(約54兆円)もの景気刺激策を実施する計画を08年に発表し、このうちの約1割を科学技術関連の技術開発など投資した中国の動きも詳しく紹介されている。

これら各国の動きを見て、どの国も科学技術イノベーション政策を競争力の強化や、雇用の安定化などに結びつけることには苦労している、と感じる読者も多いのではないだろうか。日本だけ例外とはいかないだろう、とも。

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