レポート

科学のおすすめ本ー グリーン・ニューディール オバマ大統領の科学技術政策と日本

2009.12.30

安田和宏 / 推薦者/SciencePortal特派員

グリーン・ニューディール オバマ大統領の科学技術政策と日本
 ISBN: 978-4-86345-034-9
 定 価: 1,200円+税
 編 集: 科学技術振興機構
研究開発戦略センター
 出 版: 丸善プラネット
 頁: 283頁
 発行日: 2009年12月25日

オバマ大統領が2009年4月に全米科学アカデミー年次大会で行った講演を発端として、北澤宏一氏(科学技術振興機構理事長)が中心となり企画された書である。

「グリーン・ニューディール」政策が掲げられたことで、太陽光発電の技術開発や次世代電池活用による低燃費車開発などの分野において、自国での開発・製造が行えるよう資金投入するという、米国の決意が明確になった。オバマ政権が標榜する科学技術政策やその背景の詳細を紹介するとともに、日本の多数の有識者が今後のわが国が目指すべき姿を論じている。

首相に、工学博士号を持つ鳩山由紀夫氏が就任した。いわゆる“理系”リーダー誕生はわが国初である。そして2009年9月の国連気候変動サミットにおいて、「2020年までに温室効果ガス排出の1990年比25%減を目指す」と宣言したことは記憶に新しい。低炭素社会の実現は今世紀中に不可避の方向にあり、鳩山首相の目線はオバマ大統領に比べて高いとし、本書の巻頭で、野依良治氏(理化学研究所理事長)が、鳩山新政権への期待を強調している。さらに、「日本の国是は人類存続に向けた貢献である」と科学技術外交の視点を提示する。

第2章に最もボリュームが割かれ、多くの論点を読みとることができる。例えば、飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所所長)は、「スマートグリッド革命」が新しいパラダイムとなると論じる。スマートグリッドとは、情報通信技術と太陽光・蓄電池などの分散型エネルギー技術の活用による、新しい電力ネットワークシステムである。再生可能エネルギーを大量に現在の電力網に統合するために、その役割は重要だ。

また、藤島昭氏(神奈川県科学技術アカデミー理事長)は、理系人材育成強化の必要性を訴える。スーパーサイエンスハイスクール(SSH)での特別授業や、川崎市内の中学校向けの理科副読本の発行など、教育実践事例を紹介している。理科離れが急速に進むわが国こそ、オバマ大統領が言う理科教育の充実が喫緊の課題である。そのために、まずは小学校段階における理科の授業のてこ入れ、およびサポート体制作りが急務だと述べる。

11月の行政刷新会議「事業仕分け」や、12月のCOP15(国連気候変動枠組み条約第15回締結国会議)のトピックスは、残念ながら本書の刊行には間に合っていない。しかし、政策のグランドデザインのみならず、その実現に向けて、産官学の協同の重要性が説かれ、研究開発戦略、社会インフラ整備、そして科学教育など、さまざまな視座に気付かされる。科学を尊重し、科学者に期待する一貫した姿勢が感じられた。

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