2009年度の米国は、研究開発バブルという言葉がふさわしいであろう。米科学振興協会(AAAS)の試算によれば、2月の米国再生投資法では、研究開発に215億ドルが配分されたうえに、3月に大統領により承認された09年度歳出法では、総額1,511億ドルが配分され、08年度歳出法より67.8億ドル(4.7%)と大幅に研究開発費が増大した。これは、08年2月にブッシュ大統領が発表した09年度予算教書(注1)における、研究開発費の増額分(33.9億ドル増を提案していた)の2倍に相当する額であり、民主党が多数党である議会およびオバマ大統領が、研究開発を重視し、持続的に資金を配分する姿勢を顕著に示したことを意味する。
09年度に配分された研究開発費、すなわち米国再生投資法と09年度歳出法を合わせた資金は、283億ドル増(19.6%増、約2.6兆円)と、巨額な研究開発費が単年度に追加配分されたことになる。日本の年度科学技術予算が3.5兆円程度であることから、この額が追加投資されることは脅威を感じる。
また米国再生投資法では軍事研究にはほとんどが投資されていない。そのため非軍事研究だけで考えてみると、米国再生投資法と09年度歳出法を合わせ、なんと252億増(41%増)となる。これには、米国の研究開発コミュニティーの鼻息は荒くなる、いやむしろ浮足立っているのかもしれない。増額の多くを占める米国再生投資法は、持続的な資金を提供するものではないことから、まさにバブルである。
省庁別の研究開発費配分でみると、すべての省庁が前年と同じか増額している。特に、エネルギー省、国立科学財団(NSF)、国立標準技術局(NIST)は、09年度歳出法と米国再生投資法で、手厚い研究開発費が配分されている。米科学振興協会の試算によれば、両資金を併せた研究開発費は、エネルギー省で67億ドル増(70%増)、国立科学財団で33億ドル増(73%増)、国立標準技術局は6.4億ドル増(123%増)となる。もはや異常とも受け取れる増額だ。
配分される研究開発資金が増えれば、当然助成の件数も増える。通常より研究開発助成金を獲得できる確率が上がることから、応募が殺到することが予想される。省庁の業務が増え、また査読のための人員が通常より多く必要となるなどのしわ寄せが懸念される。また米国再生投資法による助成の応募条件に、当該研究開発がどのような経済的価値を創出するかを、記述する必要がある。基礎研究の場合、経済的価値に転換するまで長い期間が必要であり、また直接的に関係しない場合が多いことから、いい加減な内容の記述となる可能性もある。いろいろな問題が予想される。しかし、この巨額な研究開発費が適正に、そして効果的に使用された場合を考えると、米国の研究開発競争力はさらに強固なものとなるであろう。
なお、オバマ大統領が重視している自然科学の基礎研究を担うエネルギー省科学局、国立科学財団、国立標準技術局に対し、09年度歳出法では、それぞれ08年度比18.8%増、5.9%増、8.4%増と、10年間で予算倍増に向けて、着実に予算を増やしており、補正予算による一時的な研究開発費の配分だけでなく、持続的な投資の姿勢は変わっていない。(文中の研究開発費の数値は、米科学振興協会の試算を用いている)
(注1)米国の予算は、例えば09年度の予算の場合、08年2月の第一月曜に、大統領が予算教書と呼ばれる09年度予算案を議会に提出し、下院、上院で審議し、両院協議会で調整を行い、最終法案を作成・可決し、大統領がサインをすることで、歳出法が成立する。米国の会計年度は10月から始まるため、通常は10月までに歳出法は決定される。しかし08年は大統領選挙があったことから、歳出法の審議をオバマ大統領が就任するまで待っていたため、会計年度が始まってから5カ月後の09年3月まで、09年度歳出法は成立しなかった。