レポート

レポート「科学技術政策世界の動き」ー 第2回「米国景気対策法」

2009.04.01

坂口敦 氏 / 科学技術振興機構 研究開発戦略センターフェロー

 オバマ政権下で2009年2月に成立した景気対策法(American Recovery and Reinvestment Act)は、2009年度歳出法や2010年度予算教書に先立って成立した研究開発予算を内在する予算であり、オバマ政権と連邦議会の研究開発方針をうかがい知れる材料として、また「追加予算」としての研究開発投資先を把握する上で有用であるため、以下に紹介する。

 景気対策法に含まれる研究開発予算の総額は、215億ドルとAAAS(American Association for the Advancement of Science)によって見積もられている。景気対策法の総予算は7,870億ドルであり、全体の2.7%が研究開発投資に充てられていることになるが、研究開発予算としての215億ドル以外にも科学技術に関連する予算として教育・州政府支援(1,060億ドル)、環境・エネルギー(380億ドル)、大学進学者の負担軽減(140億ドル)、代替エネルギー投資促進(200億ドル)などが挙げられている。

研究開発概要

 研究開発予算は主に基礎研究、医療、エネルギー、気候変動分野に投資され、まず基礎研究に関しては、国立科学財団(NSF)、エネルギー省(DOE)科学局、国立標準技術研究所(NIST)に合計で52億ドルが配分されている。これにより、悲観視されていた米国競争力イニシアティブにおけるNSF、DOE科学局、NISTの今後7年間での予算倍増方針、および米国競争力法における今後10年間での同方針の実現可能性が大いに高まったと言える。

 次に、最近は横ばい状態で推移していた医療研究を担う国立衛生研究所(NIH)予算が増加することとなり、またエネルギー研究開発予算はエネルギー省へ、気候変動関連の研究開発予算は多くが航空宇宙局(NASA)と商務省の海洋大気局(NOAA)へ配分されている。省庁別に見ると、NIH(104億ドル、景気対策法の46.1%)、DOE(55億ドル、同24.4%)、NSF(30億ドル、同13.3%)に重点的に予算が配分されている。

 続いて、景気対策法における研究開発予算の最大の特徴は、研究開発「施設費」の割合が多いという点である。施設費に35億ドルが充てられており、研究開発予算全体の16.3%を占めている。総じて述べると、一時的な投資ではあるが「長期的な効果」をもたらす投資であると言える。その理由として、基礎研究費が多い点、施設費が多い点、次世代のための投資と言える理数教育支援にも予算を割いている点、そして米国競争力法で設立がうたわれつつも歳出法で予算が付かず、設立がペンディングになっていたリスキーな革新的エネルギー研究を遂行するためのエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)設立に、4億ドルの予算が付いた点が挙げられる。

研究開発施設費

 35億ドルの施設費は大学および連邦政府の研究所へ配分され、研究機器の購入や研究施設の建設に使用される。なお、2008年度歳出法の研究開発予算における施設費は、予算全体の3.1%でしかなく、さらにその施設費の半分は研究機器の購入や通常の研究施設の建設ではなく、国際宇宙ステーションの建設予算であったことから、非常に多くの予算が施設費に充てられたことが分かる。内訳は、14億ドルが大学を対象としたNIH、NSF、NISTでの研究設備整備用競争的グラント、6億ドルが大学を対象としたNIH、NSFでの大型施設整備用競争的グラント、15億ドルがNIH、DOE科学局、農務省(USDA)、NIST、内務省の米国地質調査所(USGS)、NASA、厚生省の疾病対策予防センター(CDC)、NOAA傘下の研究所への施設予算配分である。

 景気対策法の最大の目的は短期間で世の中に流通するお金を増加させることであるが、研究開発施設への投資であれば、目的を達成できる上に、さらに結果として科学技術部門が得られる効果は長期的である。

予算の使用

 景気対策が目的であるため、予算は迅速に使用されることとなっている。当初は景気対策法成立後、120日以内の予算使用を義務付ける条項が付いていたが審議過程で削除され、最終的には2010年9月末までに、つまり約1年7カ月間で予算を使用するとの内容になった。必要性が認められればそれ以降の使用でも良いとされているが、早期使用を求める政治的圧力により、実際には迅速に使用されるものと見込まれる。

 本予算は迅速に使用されるが故に、予算の使用を注意深く監視する必要があり、そこで政府説明責任局(GAO)が慎重に監視することと法中で定められている。また、「Recovery.gov」がウェブサイトにて予算配分と使用をリアルタイムで公開する予定となっており、これにより国民の監視の目も活用し、同時に国民の信頼も得る方針である。

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