
まず、このオピニオン欄には第一線の研究者らの提言が掲載されており、ほんの一研究員にすぎない私が投稿するのはかなり気が引けるところだが、「このようなパターンもありなのだ」と皆さんに勇気を持っていただけたら幸いに思う。
研究者同士夫婦というとなにか特別な家族形態のようだが、三重大学の小川眞里子先生が書いていらっしゃったように女性研究者の場合、夫も研究者というパターンは約半数とかなり高い割合で存在している。現在、この割合は65%以上になっていることが、その後の男女共同参画学協会連絡会による「科学技術系専門職における男女共同参画実態の大規模調査」(2008年7月)で明らかになっている。わが家もその一例だが、結婚してから今まで、平日の家事労働(料理、洗濯、掃除、子どもの学校対応など)は週交代の当番制で完全に分担している。休日の買い出しは来週の当番が献立を考えて行う。
家事労働を分担してみて分かったのは、いかにわが家が「食」に重点をおいた暮らしをしているかということである。食にかかわる家事労働は毎日欠かすことのできない作業であり、わが家の場合、その労働時間は全体の7-8割近くも占めている。この食も含めた家事労働を交代制にしたことで、完全に仕事に没頭できる週があり、また家事に重点を置いた週もありと、名実ともに家事労働の分担ができたと思う。また、このように交代制にすることが日ごろの生活や仕事にもメリハリをつけているように思う。
では、この父母が交代制で家事労働をすることを家族の皆がどのように感じているか、夫、子どもの考えも踏まえて次に述べる。まず、夫に交代体制をどう感じているかと聞くと、「いいんじゃない? ただ、周りにそういう研究者はいないし、多少手伝うことはあっても、“お弁当作りもしている。”と聞くと大抵驚かれるねー」。
ただ、自分の主夫としての仕事ぶりになかなか自信を持っているようで、確かに夏休み中のお弁当用常備菜など(もちろん手作り)、かなり充実している。
そこで、子供たちに「こんな風にお父さんも家でご飯作ったり、お弁当作ったりするのってどう思う?」と尋ねたところ、「別に普通じゃない?」と第一子(男13歳、中2)は素っ気ない答え。
第二子(男10歳、小5)は「お父さんが作る弁当もおいしいし、お母さん一人より一人一人の仕事が減って良いんじゃない?」。
このように「父母が全く同じように家事労働をこなし、同じように職場で仕事する」ということは、赤ちゃんだったころからずっとそのような環境の中で育ったわが家の息子たちにとって、ごく当たり前のことであり、何も特別なことではないようである。
とは言っても確かに赤ちゃんのころは、“母親ならでは”の家事労働に長時間が必要な時期があり、かなり大変だったように思い出される。息子たち二人とも基本は母乳で育てていたため、仕事の合間に絞った母乳を実験室の冷凍庫で凍らせて、昼休憩に息子たちを預けている保育所へ届けたり、また、子供たちが少し大きくなると体力もつき、保育所で昼寝を十分して夜なかなか早く寝てくれないという時期もあった。ちょうどそのころ、学位論文も仕上げなくてはならず、子供たちを寝かせた後、論文を書いていたことを思うと、「今だったら、果たしてできるかな? なかなかできないだろうな」と思ってしまう。
ただ、わが家の場合、とても恵まれていたのは夫婦が同居できて研究が続けられる環境にあったということだ。もし、夫婦が別居で子育てをしなければならない状況だったら、夫婦のどちらか一人ですべての家事をこなさなくてはならず、必ず仕事にしわ寄せがきていたと思う。また子供たちが小さくて手が掛かる時期でも、「実験の都合でどうしても夜中職場へ行かなくてはならない」とか、「休日にどうしても職場へ行かなくてはならない」場合があることがお互いに理解できる。ということも夫婦が研究者同士で非常に便利な点であるように思う。
以上、研究者同士夫婦(有職者同士夫婦でも同様だと思うが…)という形態は、どちらかがサポート態勢にある場合に比べれば時間的に厳しい部分は確かにある。しかし、お互いの仕事の状況が理解しやすく、また、研究や仕事に対して違う分野からの視点で刺激し合えるということはそれらの困難にも勝る大きな楽しみだと思う。また、同時にこれから研究者同士夫婦というような状況を迎える方々に、「食」を含めた家事労働の交代制を一度は体験してみることをぜひお勧めしたいと思う。

(やすもと さとこ)
安本知子(やすもと さとこ) 氏のプロフィール
鳥取県立米子東高校卒。1989年東北大学農学部農学科卒、91年同大学大学院修士課程修了、91年農業研究センタ-資源作物育種研究室、01年作物研究所資源作物育種研究室、05年関東東海総合研究部第2研究チーム、06年から現職。農学博士。02年育成したゴマの新品種「ごまぞう」が「ごま農林1号」として命名登録。