「科学技術は国家戦略の中心」
昨年9月の政権交代以来、科学技術政策は大きく変わった。2,700億円基金の見直し、縮小、事業仕分けとそれを受けた予算要求の縮減に加え、予算編成プロセスの透明化や昨年末発表の新成長戦略に科学技術が明確に位置づけられたことなどが大きな関心を集めている。2月3日に開かれた総合科学技術会議の本会議では、概算要求前に総合科学技術会議が各省予算にコミットメントするアクション・プランの作成が了承された。
新政権の科学技術政策に対する姿勢や、今後どのように政策を進めて行くのか。科学技術政策を担当する内閣府の津村啓介・政務官に聞いた。
―プロジェクト研究などではなく、例えば、数学など基礎的な科学研究については、どのような考え方をとっていますか。
これは政権としてというよりも現時点での私の意見ですが、数学のような基礎研究は引き続き重要だと思います。むしろ、重複している研究、あるいは明らかに国際標準がとれていないにもかかわらず、過去の惰性というか、今の教授が退官するまでは続けなきゃというような研究がたくさんあると思うんです。やっている人たち自身がこの研究駄目だよね、と思っている研究です。だけど、誰もやめろとは言えないし、自分たちから声を出したら、自分たちの行き場がなくなるから、という研究がたくさんあるとにらんでいます。誰かがやめさせないといけません。そういう役割を総合科学技術会議が担うべきだということです。
―次世代プログラムで地方の枠を設けていますが、地方の科学技術活性化のためにどんなことを?
難しいテーマです。正直、47都道府県全部が同じレベルで科学技術に貢献する必要はないと思っています。ライバルは世界なので、国際的に通用する科学技術拠点が分野ごとに10か20あれば成り立つ話です。ただ一方で政治の役割というのは、とんがりと広がりをつくることだと思っています。それが富士山型なのかエアーズロック(注)型なのか、それは民間の努力だと思うんです。どれだけの膨らみを持ってデザインするかということまでは、政府はできないと思うのですが、やはり裾野をつくる、幅の広さをつくるという意味で、47都道府県、最低1件は採択するというのは、政治的なメッセージなんです。ちゃんと目を光らせているよ、という。
各県から1件採択されることは決まっているのですから、その県内で「おれがとってやる」という人が出てきて、その県内での競争になる。その新しい競争が生まれることが重要なのであって、結果的にそれが中央から見れば低いレベルの争いであってもよいのです。もっと言えば、捨て金になっても多くの人の脳みそからアドレナリンが出ればよい、そのためのお金なのだから、と思っています。
―次世代プログラムでは、グリーン・イノベーションとライフ・イノベーションを公募対象分野としていますが、グリーン・イノベーションとは一体どういうものでしょうか。
地球温暖化対策という出発点を強く意識しながら、環境分野やエネルギー分野を中心に日本発で世界の科学技術水準の向上に貢献できる一連の学術および技術群だと思います。ゴールは地球温暖化対策で、そこは外さないということです。既存の分野で大きくいえば、環境関連分野とエネルギー関連分野が柱になるでしょう。また、これは将来の成長分野と位置づけられているわけですから、将来、各国にシステムとして輸出できるような、最終的には他国にも貢献できるという視座を忘れないことが大事です。出口がそこに結びつくのであれば、かなりさかのぼった基礎研究も含めて、学術、科学、技術、イノベーションを包含したようなものに…。川上から川下まで一つの筋の通ったものであれば、基礎研究にも十分な目配せをすべきだと思っています。
―民主党の政策INDEXには、総合科学技術会議を改組して科学技術戦略本部(仮称)を設置することになっていますが、その狙いは?
科学技術政策というものが、政府全体、国家全体として位置づけられなければいけないということは、旧政権下も持っていた意識だと思います。総合科学技術会議もそういう趣旨で設置されたと理解しています。ただ、旧政権下では官僚機構が極めて強固で政治主導というものが全く機能していなかったため、結局、優先度判定一つとっても、各省庁の後追いで、財務省の手伝い、下請けにもなっていないという実態がありました。当初の総合科学技術会議というのは良いスタートを切ったと聞いていますが、ほどなくして理念が失われてしまったわけです。今回、私たちは旧政権下での失敗を反面教師として、科学技術政策の司令塔としての総合科学技術会議にあらためて魂を吹き込む作業をしようとしています。総合科学技術会議の存在自体を否定するのではなく、魂を吹き込むことが最大の意義です。
この10年間を振り返って、工夫すべきことは何だったのかということを考えてみました。一つは予算編成へのコミットメントが薄弱だったこと、もう一つは政策決定プロセスが不透明で密室での会議だったこと、さらにスタッフが短期で入れ替わり、科学技術部局の人事が不安定だったことの3点が主な問題点です。だからこそ、アクション・プランという新しい取り組みを始めました。さらに2つ目には有識者会合を報道陣に公開するなど情報公開を徹底してやっております。3点目として人事の安定性と専門性を持った人材を広い領域から集めることを実現するために科学技術戦略本部をつくることです。
この3点目が今後の課題です。今のまま内閣府に置くか、内閣官房に置くかが一つのポイントになりますし、常勤議員と非常勤議員の数とバランス、世代間のバランスなども議論になるでしょう。今回のアクション・プランで予算編成へのコミットメントを相当強化しましたが、財務省や国家戦略室との連携も含めて、さらに予算編成へのコミットメントを進化させる方策があるのかないのかが、大きなポイントになると思います。
- (注) オーストラリアの岩山。ずんぐりした形をしている。
(科学新聞 中村 直樹)
(完)
津村啓介 (つむら けいすけ)氏のプロフィール
1971年岡山県津山市生まれ。90年麻布高校卒、94年東京大学法学部(政治コース)卒、日本銀行入行、オックスフォード大学経営学修士(MBA)、英外務省チーブニング・スカラーシップ奨学生。2002年民主党衆議院選挙候補者公募合格者第1号。03年衆議院選挙で初当選。現在3期目。鳩山内閣で内閣府政務官に就任。担当は国家戦略、経済財政政策、科学技術政策、地域主権推進、知的財産戦略、IT戦略など。毎週1回開催される総合科学技術会議有識者議員と担当大臣との会合には必ず出席し、関係する専門調査会などにも出席するなど科学技術政策策定に大きな役割を果たしている。