大気中より希薄な二酸化炭素(CO2)から、前処理をせずに都市ガスの主原料であるメタンを高濃度に合成する技術を初めて開発した、と産業技術総合研究所などの国際研究グループが発表した。温室効果ガスであるCO2を産業界の排ガスや大気中から回収し、役立つ物質に変えて利用する「CCU(CO2回収利用)」技術への貢献が期待される。
低炭素社会を視野に、CO2を吸着する性質を持つナトリウムやカリウム、カルシウムなどと、ニッケルを組み合わせた触媒を活用する研究が進んでいる。この触媒は2段階の働きを持ち、まず気体の成分のCO2を吸着。続いて水素を与えると、ニッケルの触媒作用により、吸着していたCO2と反応してメタンと水ができる。こうして気体からCO2を取り出し、有用なメタンに変えられる。従来の研究では、発電所の排ガスなど、産業界から生じる比較的高濃度のCO2を含む気体が対象となってきた。
そこで研究グループは、CO2を低濃度にしか含まない大気などでも機能するよう、この触媒に独自の調整を追加。さまざまな濃度のCO2を含む気体を使い、触媒の性能を確かめる実験を行った。具体的な濃度は(1)産業界の排ガスに相当する5~13%、(2)大気中を想定した400ppm(1ppmは100万分の1)、(3)大気よりさらに希薄な100ppm--とした。反応速度を高めるため実験は450℃で行った。
その結果、最も厳しい(3)の条件でも、開始から40分後まで、実験容器の排気口からCO2が出なかった。この時点までは触媒がCO2を吸着したことを示している。容器から元の気体を抜いた後、水素を入れたところ、間もなくメタンが発生。通常の反応に比べ、実に1000倍以上も高い濃度に達した。3条件全てで、触媒が機能することを確認した。触媒から出たCO2のうち90%以上を直接、メタンに変換できた。
大気中からのCO2回収に実用化されることを想定し、大気と同じ20%の酸素を含む気体でも実験した。ニッケルは酸素に触れて酸化すると、触媒としての性質を損ねてしまう。実験では性能がやや低下したものの、CO2の吸着とメタンへの変換に成功した。
従来のCCU技術では一般に、CO2を変換する前に、吸収剤で濃度を100%近くに高める処理が必要で、多くの熱エネルギーを使う。これに対し今回の実験で用いた触媒を使うと、吸着したCO2を放出するのは熱を吸収する反応で、メタンができるのは熱を発する反応。2つが同時に起きるため原理としては、外部から熱を加える必要がない利点があるという。
研究グループの産総研エネルギープロセス研究部門エネルギー変換プロセスグループの倉本浩司研究グループ長(反応プロセス工学)は「CO2を大気や排ガスから直接メタンに転換する技術を、CCUの切り札の一つとして作り上げ、低炭素社会に革新をもたらしたい」と述べている。
研究グループは産総研とオランダ・デルフト工科大学で構成。成果は米化学誌「ACSサステイナブル・ケミストリー・アンド・エンジニアリング」の電子版に2月25日に掲載された。
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