福島第一原発事故対策の難題の一つになっている放射性セシウムで汚染された土壌の処理に効果的と期待される方法を、産業技術総合研究所の研究グループが開発した。
川本 徹 グリーンテクノロジー研究グループ長、田中 寿 主任研究員らが開発した方法は、まず土壌中の放射性セシウムを低濃度の硝酸あるいは硫酸で抽出し、古くから知られる青色顔料「プルシアンブルー」のナノ粒子で吸着する。低濃度の酸水溶液を使うため再使用も可能で、低コストで簡便にセシウム汚染土壌を除染できるのが優れた点だ。
福島第一原発事故では福島県の広い範囲の土壌が汚染されており、この処理をどうするかが今後、大きな問題になるのは必至と見られる。暫定的に集約保管するにしても、その後、恒久的な処分場に移すにしても膨大な量の土壌を出来る限り減量化することが必要。農業・食品産業技術総合研究機構が6月に行った農地表土除去試験では、7アール(700平方メートル)の農地処理で50トンの廃棄土壌が生じた。産業技術総合研究所によると福島第一原発周辺の警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域に含まれる12市町村の農地面積は26,000ヘクタール(260平方キロメートル)あり、農地だけで1,800万トン以上の廃棄土壌が生じてしまう計算になる。
産業技術総合研究所によると、今回の実験で使用したプルシアンブルーナノ粒子の量はセシウムイオンを抽出した元の土壌量の150分の1であることから、放射性廃棄物として処理しなければならない土壌の量を150分の1に低減できる可能性があるという。
文部科学省は5月、学校、幼稚園などの放射線防護策として庭の表層土を埋め戻すなどの対策が効果的だとする通知を、福島県教育委員会や福島県知事に出している。同省の通知は、日本原子力研究開発機構が福島県内で実施した調査に基づいており、この調査によると深さ5センチ程度の表層土を削り取るだけで、土壌の表面線量率は大幅に低下することが分かっている。ただし、削り取った土壌をどう処分するかは、依然、大きな問題となったままだ。