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昨年から今年へ、3~4月も大小地震が頻発 「地震大国」意識し「備え」再点検を

2022.04.28

内城喜貴 / 科学ジャーナリスト、共同通信客員論説委員

 日本は狭い国土に地震が頻発する「地震大国」だ。太平洋プレートが陸側プレートに沈み込む日本海溝などで「海溝型」の大地震が起きる。海溝型のほか、全国で推定2000以上も活断層があり、断層のずれによる地震も多発する。今年は3月16日に福島県沖を震源とするマグ二チュード(M)7.4、最大震度6強を記録した大地震のほか、M4.0以上の地震が200回近く発生。4月も震度3~4程度の地震が各地で起きている。地震頻発は、東日本大震災を起こした東北地方太平洋沖地震から10年を迎えた昨年から続く傾向だ。

 昨年は2月に福島県沖を震源とする震度6強、3月と5月に宮城県沖が震源のいずれも5強、また10月にも岩手県沖や千葉県北部を震源として5強の揺れを記録した。5弱以上は約10回を数えた。

海溝型地震のタイプ(政府地震調査研究推進本部/地震調査委員会提供)
海溝型地震のタイプ(政府地震調査研究推進本部/地震調査委員会提供)

 地震が頻発するとつい「巨大地震の前触れでは」と不安になるが、気象庁や地震の専門家の多くは発生回数の多さは指摘しつつ「特に異常な状態ではない」と強調している。その一方で「日本列島全体はどこでも地震が起きる」(平田直・東京大学名誉教授)などと注意を呼びかけている。自分の周囲でいつか大地震が起きることは想像できても「しばらくは大丈夫だろう」と考えがちだ。最近の地震頻発を契機に、「次はここが激しく揺れて大きな被害が出るかもしれない」との危機感を持ち、身の回りの「備え」を再点検したい。

東北地方太平洋沖の活動は依然多く

 政府の地震調査委員会委員長を務める平田氏は4月11日の定例会合後の記者会見で、国内やその周辺では3月にM4.0以上の地震が195回発生したことを明らかにした。平田氏は当時「特に異常な状態ではない」としつつ「平均的な(発生)数に比べて倍以上と多い。日本列島全体はどこでも地震が起きるが、特に東北地方の太平洋沖での地震活動は依然として多いので改めて注意し備えてほしい」と呼びかけている。

 3月16日深夜の地震は最大震度6強の大地震だった。多くの人が11年前の「あの日、あの時」を思い出した。気象庁と地震調査委員会によると、震源は沈み込む太平洋プレートの内部の深さ57キロ。比較的深いために強い揺れが広範囲に及んだ。震源で東西に押し合う力がかかって断層が上下方向にずれる「逆断層型」だった。昨年2月にもほぼ同じ場所でM7.3の地震が起きている。2011年3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震の本震の震源域の中で起きた大きな余震とみられるという。

 3月にM4.0以上の地震が195回も発生したことについて平田氏らは、3月16日深夜の大地震の後、周辺で地震活動が活発化したことなどが影響したとみている。「東北地方太平洋沖地震の影響でM6~7の地震が毎年起きる可能性はあり、それが当分続くだろう」。同氏はこう指摘する。

 平田氏によると、東日本大震災を引き起こした大地震はM9.0で「超」が付くほどの巨大地震だった。2016年に起きて大きな被害を出した熊本地震と比べると、エネルギーは約1000倍。同地震のすべり量(D)は2~4メートルだったが、東北地方太平洋沖地震は20~40メートルもあった。

2021年2月、日本記者クラブ主催のオンライン形式の勉強会(記者ゼミ)で科学担当記者らに「東日本大震災から10年-地震防災の今の課題」を講義する平田直氏
2021年2月、日本記者クラブ主催のオンライン形式の勉強会(記者ゼミ)で科学担当記者らに「東日本大震災から10年-地震防災の今の課題」を講義する平田直氏

 巨大地震により、地震活動が長く続く例は海外でも見られる。2004年にインドネシア・スマトラ沖で起きたM9.1の巨大地震では2012年に余震域でM8.6の大余震を観測している。東日本大震災を起こした大地震の影響は11年以上たった今も続いているのだ。

 4月に入っても地震は多い。震度4だけでも、2日に茨城県北部を、4日に石川県能登地方を、6日に福島県沖を、7日に愛知県東部を、それぞれ震源とする地震が発生。19日には福島県中通りを震源とする震度5弱の地震が発生している。

 こう地震が続くと多くの人はやはり心配になるが、気象庁などによると、地震活動は自然現象なので一様に続くわけではなく、多い時期と少ない時期があるという。

東北地方太平洋沖地震により地震発生確率が高まっている可能性がある海溝型地震の領域(ピンク色の部分)(政府地震調査研究推進本部/地震調査委員会提供)
東北地方太平洋沖地震により地震発生確率が高まっている可能性がある海溝型地震の領域(ピンク色の部分)(政府地震調査研究推進本部/地震調査委員会提供)

九州~沖縄の海でM8級の巨大地震も、と政府調査委

 地震が頻発していた3月の25日。政府の地震調査委員会が、南海トラフに隣接する日向灘や与那国島周辺を含む南西諸島を震源とするM8級の巨大地震が起こり得る、とする今後30年間の「長期評価」を公表した。

 巨大地震の厳密な定義はないが、M8級以上を呼ぶことが多い。地図を見ないと分かりにくいが、日向灘を含む東海~九州沖の南海トラフでは「M8~9級の巨大地震が30年以内に起きる確率は70~80%」とする長期評価が既に出され、最大級の警戒が必要とされている。

今回公表された日向灘や与那国島周辺を含む南西諸島を震源とする地震の「長期評価」の対象領域(政府地震調査研究推進本部/地震調査委員会提供)
今回公表された日向灘や与那国島周辺を含む南西諸島を震源とする地震の「長期評価」の対象領域(政府地震調査研究推進本部/地震調査委員会提供)

 今回「データ不足」(地震調査委員会)として詳しい確率は出されなかったものの、日向灘や南西諸島の海溝周辺でM8級が起こり得る、とされた。1月22日に日向灘でM6.6、最大震度5強の地震が発生していただけに衝撃だった。九州から沖縄の海を震源とする巨大地震に対する初めての警告だった。Mが1つ小さいM7.0~7.5の地震については日向灘で「30年以内に80%程度」、与那国島周辺で「30年以内90%程度」、南西諸島北西沖で「30年以内60%程度」と、それぞれ高い確率が出された。

日向灘周辺や南西諸島海溝周辺を震源とする地震の「長期評価」による「今後30年以内の地震発生確率(政府地震調査研究推進本部/地震調査委員会提供)
日向灘周辺や南西諸島海溝周辺を震源とする地震の「長期評価」による「今後30年以内の地震発生確率(政府地震調査研究推進本部/地震調査委員会提供)

 これらの長期評価の根拠になったのは過去の大地震や津波で、1662年の日向灘地震、1771年の八重山地震津波、1911年の喜界島地震などだ。いずれも津波が運んだ砂などの痕跡は残っているが、詳しい実態は分かっていなかった。八重山地震津波では、最大30メートルの津波が島を襲い、多数の死傷者が出たとされる。津波によって陸に打ち上げられた「津波石」が津波の規模の大きさを物語っている。今回の評価に際しては古文書や大昔の観測データなどを調べ直したという。

1771年の八重山地震津波によって打ち上げられたとみられる沖縄県・石垣島東海岸の津波石(政府地震調査研究推進本部/地震調査委員会資料から)(後藤和久氏提供)
1771年の八重山地震津波によって打ち上げられたとみられる沖縄県・石垣島東海岸の津波石(政府地震調査研究推進本部/地震調査委員会資料から)(後藤和久氏提供)

 今回長期評価を出した地震調査委員会の関係者によると、東北地方太平洋沖地震が起きた日本海溝や、今後巨大地震が警戒される南海トラフに比べると、南西諸島の大地震についてはまだ不明な点が多い。1662年の日向灘地震についてはこれまでM7.6と考えられてきた。しかし、最新の分析研究では海岸近くの地下に残る痕跡などからM8級の巨大地震だった可能性が強まったという。

 岩手県や宮城県では江戸時代以降に大津波が繰り返していた。その痕跡もあったが、東北地方太平洋沖地震の前は巨大津波発生の危険性が具体的に想定されていなかった。そして甚大な被害を出してしまった。今回の長期評価はその教訓と反省を反映した形だ。

 具体的な発生確率の数値は出さなくても「日向灘や南西諸島の海溝周辺でM8級が起こり得る」と警告した。発生の仕組みや確率など不明な点も多いものの、将来起こり得る大災害を指摘することを優先した形だ。従来の想定より大きな地震が起きる可能性があり、ここでも日頃からの警戒と「備え」が必要だ。

行政も個人も「事前防災」の徹底を

 世界で発生するM6以上の大きな地震の約2割が日本で発生したという。大地震、とりわけ海溝型の巨大地震は社会、経済に甚大な、時に致命的な被害を及ぼす。「30年以内に70~80%の確率で起きる」とされる南海トラフ地震については最大約32万3000人もの犠牲者が出ると試算されている。北海道東部の千島海溝を震源とし、大津波を伴う巨大地震も「切迫している可能性が高い」とされている。首都圏機能を襲う首都直下型地震も、「今後30年以内に70%の確率で起きる」と予測されている。最悪想定では死者は約2万3000人、経済被害は95兆円に達するとも言われる。

 こうした想定被害を想像すると恐ろしい。だが「事前防災」、つまり「備え」を徹底することで、建物被害や死者をかなり減らせる。地震調査委員会委員長の平田氏によると、事前防災の徹底により、南海トラフ巨大地震については、死者を約6万1000人まで減らせ、建物被害や火災被害も大幅に減らせるという。平田氏はさらにこう強調した。「この『減らせる数』をさらにどこまで減らせるかが今後の重要な課題だ」。

防災対策を実行後の想定被害(平田直氏提供)
防災対策を実行後の想定被害(平田直氏提供)

 行政は、津波から安全に避難できる施設の整備や建物の耐震化促進、急傾斜崩壊対策などを急ぐ必要がある。個人レベルでもできる備えは多い。家具の固定化、防火対策、防災備品などの確認などだ。

 甚大な被害が予想される海溝型の巨大地震、大地震だけでなく、活断層による大小の地震への備えも忘れてはならない。頻度では活断層型の方が多い。地震調査委員会は海溝型と活断層型の両方の長期評価を実施して「全国地震動予測地図」と「30年以内の発生確率」を公表している。評価対象は全国で約600万地点にも及ぶ。「30年以内の発生確率」はあくまで目安だ。

 例えば南海トラフ巨大地震の「30年以内に70~80%」では、70や80を30で割って「1年以内の確率」を出すのは間違いだ。30年経っても起きないかもしれないが、明日、いや今日起きる可能性もある。そういう数字だ。「地震大国」に住む我々は、地震は避けられないが、被害を少しでも少なくすることはできる。そのことを肝に銘じたい。

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