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全国どこでも「強い揺れ」の可能性あり、「備え」の徹底を 地震調査委が「全国地震動予測地図」公表し警戒呼び掛け

2021.03.31

内城喜貴 / サイエンスポータル編集部、共同通信社客員論説委員

 関連死を含めると2万2000人余りの犠牲者を出した東日本大震災から10年を経て、多くの人があの巨大地震や巨大津波の恐怖を思い出した。政府の地震調査委員会(平田直委員長)は大震災を起こした東北地方太平洋沖地震の余震はまだ続いていると警戒を呼び掛けているが、このほど「全国地震動予測地図」の最新版(2020年版)を公表し、全国のどこでも大きな地震に襲われる可能性があることを強調した。

 地震動とは地震に伴う地面の揺れのことで、地震動予測は今後激しい揺れに襲われる確率がどの程度あるかを示す。最新版は前回の18年版まで除外していた東北地方太平洋沖地震の余震を考慮した結果、太平洋側の東北地方では強い揺れに襲われる確率が増加。南海トラフ巨大地震が想定される広い地域でも高い確率となった。

 このほか活断層型の地震を含めて日本列島全体が大地震に見舞われる危険が高いことを示しており、地震調査委は改めて事前の「備え」、「事前防災」の大切さを強く訴えている。今こそ災害に強い「レジリエント」な国づくりが求められているが、「地震列島」に住む私たちも個人レベルでできる防災対策を進めたい。

今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率(地震調査委員会提供)

250メートル四方区画の全国600万地点を評価

 全国地震動予測地図は国内各所を襲う地震動の強さや危険性を「今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率」といった形で確率を色別に示している。プレート境界の海溝型だけでなく、内陸部の活断層型についても個々の地震想定を基に作成。地震調査委は2005年に初回を公表し、定期的に改定している。

 地震調査委は今回、全国地震動予測地図として全国を250メートル四方の区画に分けて揺れを推定。実例として自治体の庁舎がある場所の「30年以内に震度6弱以上」の確率を公表した。評価対象地点の数は約600万にも及んだ。地震波は地盤に伝わるが、地盤の性質はさまざまで、例えば地盤が軟らかいほど地表の揺れが強くなる。

 今回の作業では、地盤の性質を「山地」「火山灰台地」「埋め立て地」など24種類に分類した。全国の地点ごとに地盤や地形の情報を細かく見直して、地盤の固さやその地盤から推定される「揺れやすさ」を設定。震度6弱以上の強い地震の揺れが地表にどう伝わるかを詳細に解析している。

 こうした膨大な解析作業の結果、海溝型の巨大地震や大地震が懸念される地域で高い確率になった。県庁所在地や主要都市で高い順では水戸市が81%、根室市が80%。続いて高知市と徳島市が75%、釧路市71%、静岡市70%などが目立って高い。

 10年前の余震活動が考慮された結果、東北地方の太平洋側ではそろって確率が上がった。福島市は前回18年版を2.2ポイント上回って9.3%。仙台市は6.1%から7.6%に、盛岡市は4.6%から6.3%にそれぞれ上がった。また、新潟県中越沖地震(2007年)や熊本地震(16年)の余震などを再評価した結果、新潟市は15%、熊本市は11%となり、18年版と比べて数ポイント上がった。

 南海トラフ巨大地震は「30年以内にマグニチュード(M)8~9クラスの地震が起きる確率は70~80%」と想定されている。今回揺れを予測にするに当たって、地震調査委は内陸部についてはM7~8クラスを想定して計算した。その結果、東海~九州沖の地域は広い範囲で高い確率が出たが、今回計算条件を見直したことにより、静岡県東部や山梨県、長野県の一部で確率が低下した。一方、海側では70%台の高知市、徳島市のほか、和歌山市が68%など、軒並み高い確率になっている。

海溝型地震のタイプの概念図(地震調査委員会提供)

活断層型地震は地盤の固さなどを見直し

 地震調査委は活断層型地震についても地盤の固さや地形データを見直した。その結果、さいたま市は60%(前回55%)に上がり、一方、千葉市62%(同85%)、横浜市38%(同51%)、大阪市30%(同55%)などが大きく下がった。東京都は新宿区で47%だった。

 地震動を予測する基本的な方法は過去の一定期間に起きた地震の数や規模を調べ、将来も同じように起きるとの前提から導き出す。地震調査委の平田委員長によると東北地方太平洋沖地震のエネルギーは熊本地震の約1000倍。余震も多く、M4以上だけを見ても大震災前の数十~数百倍を数える。

 地震動予測に際して地震調査委は、あまりに急増した余震についてはデータが不足する中で考慮すると余震影響の過大評価になる恐れがあるとして、前回18年版までは震災後の余震要素を考慮していなかった。今回、新たな余震データも加味して初めて詳しく解析して確率を出したという。

 南海トラフ巨大地震は、東北地方太平洋沖地震のように広い震源域の全てが東海~九州沖にわたり破壊されると巨大地震になるが、一部だけが破壊される可能性もある。つまり破壊の規模に応じて地震の規模も大きく変わる。陸上の揺れ方も大きく変わるわけだ。18年版では破壊規模などについて15パターンを想定していた。今回はパターンを180近くに増やし、過去の地震も細かく分けて確率を計算したという。

「全国地震動予測地図」の2018年版と今回の20年版との主な違い(地震調査委員会提供)

一人一人が予想被害に応じた対策を

 地震研究については海溝型も活断層型も未知のことは多い。国内には2000以上の活断層があるが、存在を知られていない活断層も多数存在するとされる。海溝型の大地震も「100年に1度程度」の周期のものもあれば「1000年に1度程度」のものもある。活断層の活動周期も1000年から長いものは何と数万年単位とされる。過去数千年の地震を調べて予測するのは極めて難しい。それでも多くの地震学者、関係者は特に東日本大震災の後、最新の観測データも駆使してこの困難な作業に挑戦している。

 今回、地震調査委は「科学的証拠がないので分からない」では事前防災も進めようがない、として、科学的知見として必ずしも確立していない推定も一部導入し、可能な限り最新の知見を動員して全国の地震動予測に反映させたという。

 中央防災会議防災対策推進検討会議の推計によると、南海トラフ巨大地震で予想される死者・行方不明者は何と約32万人を超える。耐震化率を100%にし、屋内での落下物対策や避難行動を徹底するなど「事前防災」の対策を取るとその数は約6万人余りにまで減らせるという。

 それでも東日本大震災の3倍というとてつもない犠牲者の数だ。犠牲者の何倍も何十倍もの悲しい物語があったことを思い出すにつけ、自然の残酷さを思わざるを得ない。平田委員長は「約6万人余りというこの数字をどうやってもっともっと減らせるかがこれからの最大の課題だ」と言う。

 全国地震動予測地図は防災科学技術研究所の「地震ハザードステーション」で閲覧できる。自宅や勤務先、通学先など自分たちが関係する場所に被害を及ぼす地震を調べることができる。予想される被害に応じた対策を一人一人が考え、家具の固定、避難行動の確認など「備え」を徹底しておく必要があるだろう。

内閣府の「ゆれやすさマップ(2013年)。直下でマグニチュード(M)7の地震が起きた場合の震度分布(内閣府・地震調査委員会提供)
震度6弱(左)と震度6(右)の揺れの違い(気象庁提供)

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