大学の秋入学制に関わる議論が活発化している。製造・販売拠点の海外展開を迫られている企業の話題など、「グローバル」という文字を新聞で見ない日はまずない。こうした社会の要請に大学が十分応え得るかという危機感が、秋入学制移行を望む大学人に強まっているということだろう。
秋入学論議の発端をつくった「東京大学入学時期の在り方に関する懇談会」の報告書「将来の入学時期の在り方について-よりグローバルに、よりタフに-(中間まとめ)」は、よりグローバルでタフな学生を育成するために、国際的な学習体験を積ませる必要を強調している。大学院に比べ海外留学や留学生受け入れ数が少ない学部の現状に、とりわけ危機感が強い。国際標準に合わせた秋季入学制へ全面移行することで、世界で活躍できる人材育成という社会の要請と、大学自体の国際競争に対応しよう、というわけだ。 日本の大学の国際評価となると、よく引き合いに出されるランキングがある。英国のタイムズ・ハイヤーエデュケーションが毎年発表している大学の総合評価順位だ。最新、2011-2012年の世界大学総合ランキングによると、東京大学はアジアでは最上位に評価されたものの世界全体では30位である。次いで京都大学52位、東京工業大学108位、大阪大学119位、東北大学120位と上位200位までに5大学しか入っていない。 当サイトが4年前にレビュー記事「日本の大学が国際評価で見劣りするのは」で取り上げた2008年の同じランキングではどうなっていただろう。
東京大学(19)、京都大学(25)、大阪大学(44)、東京工業大学(61)、東北大学(112)と今回と同じ顔ぶれが上位5位に並んでいる(かっこ内は世界順位)。加えて名古屋大学(120)、九州大学(158)、北海道大学(174)、早稲田大学(180)、神戸大学(199)の5大学も200位内に入っていた。3年間で200位内の数が半減しただけでなく、軒並み順位を下げているわけだ。
東京大学の「将来の入学時期の在り方について-よりグローバルに、よりタフに-(中間まとめ)」が挙げているのは、留学生比率や外国人教員比率といった国際化指標面の立ち後れである。しかし、総合評価低迷の大きな理由として、これら国際化指標だけを強調するのは妥当だろうか。総合評価に占めるこれら国際化指標の比重はそれほど大きくなく、さらに見劣りしているのは2008年当時から変わりない点だ。
5日当サイトのオピニオン欄に掲載した日比谷潤子・国際基督教大学学長の寄稿「なんちゃってセメスター制」で、日比谷氏は「秋入学は国際化の特効薬なのだろうか。ことは、それほど単純ではない」と言い切っている。氏が具体的に指摘しているのは、学期で単位を完結してしまう海外大学と、前期、後期を通して単位を取らせる日本のほとんどの大学の違いだ。集中的、効果的に教え込むという工夫、努力が日本の学部教育には希薄、ということだろう。
まずは入学時期を半年ずらすという大きな改革を実現する。こうした合意形成ができてしまえば、単位制度など細かい修正はなんとでもなる。恐らく秋入学制を実現しようとしている人たちはそう考えているのだろう、と想像はするが…。