いよいよ取りかからなければ、と覚悟を決めて、祝日の早朝から自宅パソコンに向かう。ウンともスーとも言わない、と思うほど動作が遅くなってしまったのが、1月ほど前だったろうか。とにかく中身を軽くしなければと、あまり使いそうもないと思われるプログラムをいくつか削除した中にワードソフトが入ってらしい。送られてくる添付ファイルが読めなくなってしまった。
いよいよパソコン自体を買い替えるほかないか。インターネットプロバイダーとのつなぎ変えに始まり、アドレスや住所禄の移し替えでどのくらいの時間を食うだろう…。考えているうちに、憂鬱になってしまったのだが、残しておいたWindowsのソフトを入れ直した結果、ワードソフト復旧は成功し、やれやれとなる。さらに友人の一言を頼りに記憶空き容量の整理など初めての操作に挑んだのが功を奏したのだろうか。動作速度も何とか耐えられるまでになる。
そこで欲を出したのが、まずかった。新しいワードソフトで送ってくるファイルが開けられない深刻な問題が残っている。この日朝から作業にかかって、見つけたのが「今すぐ(ネットで)購入すると、Microsoft Office Personal 2010が10%オフ」という表示。これに飛びついた結果、丸一日を棒に振ってしまった。ダウンロードできるのは当日だけ、それも5回しか試みられないという制約の中で操作はことごとくうまくいかず、結局、インストールに失敗してしまう。4回目がひどかった。近所のコンビニで買ってきたCD-Rを、パソコンがなぜか受け付けない。やむなく手持ちのUSBメモリを空にして、いったんこちらにダウンロードしようと操作して待つこと6-7分たっただろうか、ダウンロード99%というところでなんと「容量足りず」という表示。これまた失敗に終わる。
有楽町の家電量販店まで出かけ、一番容量の大きそうなUSBメモリーを買ってくる。これにはどうやらダウンロードできたようだが、これから肝心のパソコンに入れる方法が分からない。くたびれ果てて水割りを飲みながらラジオのニュースを聞き始めた時に流れてきたのが「立川談志喉頭がんで死去」の報だった。読売ホールで最後に聴いたのは1年前、あるいはもっと前だったろうか。いつ死ぬか分からん、といった意味のことを言いながら、まだ大丈夫という感じだった。ただ、その後も時々聴くNHKラジオの「新・話の泉」に、いつごろからか事前収録だけの参加になった。ちょっと前に「芝浜」の一部を放送していたが、あれは再起が難しいことを「新・話の泉」のスタッフが知っていたからだろうか。
翌、24日の各紙朝刊を読むと、最も得意としている噺(はなし)に芝浜を一様に挙げていた。多分、その通りなのだろうが、この人は単純な人ではない。芝浜の一番の聴かせどころを、皆が期待するようにはやりたくない、といったような意味のことを、いつか「新・話の泉」の中で言っていたような気がする。客が喜ぶのだから、いつまでも同じように演じればよい、とは考えない人なのだろう。その時、漠然と感じたのだが、見当違いだろうか。
ある時、これもラジオで、昔の歌謡曲と歌謡曲歌手について話しまくるのを聴いて驚いたことがある。恐ろしくたくさんの歌謡曲に対する思い入れと、出てくる有名な歌手との付き合い方が尋常ではないのだ。
また、いつごろか思い出せないほど古いテレビのバラエティ番組の一場面が、なぜかいまだに忘れられない。無論、当時もスタイル抜群の由美かおるさんが、これ以上短くはできないと思われるミニスカートをはいて立っている。そこへ近づいてきたのが、マドロス姿の談志師匠。口から外したマドロスパイプの頭を、由美かおるさんのミニスカートの裾に引っかけヒョイとめくろうと…。無論、すぐに手荒く払いのけられる。
ただそれだけの寸劇だった。しかし、鮮やかに脳裏に焼き付いている。由美かおるさんの明るい色気もさることながら、談志師匠のいたずら好きでやんちゃな性格にピッタリのシーンだったからだろう。
「新・話の泉」の出演者たちは皆、愉快な人たちばかりだが、いつも女性アナウンサーの司会ぶりが、実に自然でかつウイットに富んでいるのに感心していた。24日午前、初めて番組のホームページを開き、気付く。記者時代に毎日、ニュース番組で見ていた「黒田まゆみ」アナウンサーだ、と。最近テレビに出ていないようだし、再婚して渡邊姓に代わっていたのも知らなかったから分からなかった。うまいはずだ。
「新・話の泉」は中心となる家元が亡くなって、番組存続も難しくなるのだろうか。出演者たちもがっくりだろうが、多くのファンもまた思っているのではないだろうか。こっちは本当に夢だったらなあ、と。